――本当に長年、県民に寄り添ってきた家具店ですが、今回、閉業を決断された理由は何ですか?
私は、経営者として、続けることも、一つの責任ですが、終わらせることも一つの責任だと思いました。
時代が大きく変わる流れの中で、現状の家具店経営の採算性や将来への継承性を今、ここで冷静に見極めると、私の代で「商い」を円満に終わらせることが、私の役割であると苦渋の決断をしました。
――長い歴史の中で、時代に沿ってどのように変化をされてきましたか?
福井では、30年くらい前までは、結婚の際に『荷送り』といって、花嫁の嫁入り家具を新居に運びました。それは、家具は単なる生活道具ではなく、娘を想う親の気持ちそのものだったと思います。

婚礼衣装を運んだトラック
時代とともにその形は変わり、今では簡略化されましたが、家具店として、その大切な人生の節目に関わることができたことに大きな喜びを感じています。
――お客様との思い出を聞かせてください
家具は、人の暮らしの中で静かに寄り添い続ける存在です。そして、その始まりには、必ず“選ぶ時間”があります。
家具を選ぶ時間は、暮らしを描く時間。そのひとつひとつが、かけがえのない記憶として積み重なってきました。そんな大切な時間を私たちの店で過ごしていただけたこと、その積み重ねこそが、私たちの誇りです。
――これまで出会ったお客様への思いを聞かせてください
「本当にありがとうございました。」その一言に尽きます。
お客様の幸せな人生の一場面に関わらせていただいたことに、心から感謝しています。
――まだ続けて欲しいという声がある中で、170年続いた歴史に幕を下ろすことに、どんな想いでいらっしゃいますか?
軽い気持ちで終われる歴史ではありません。だからこそ、最後まで誠実に向き合うと決めました。
長年支えて頂いたお客様、お取引先の皆さま、そして従業員たち。多くの方とのご縁の積み重ねが、この170年余りの歴史です
だからこそ、最後まで誠実に、この歴史に相応しい終わり方をしなければならいない、そう強く思っています。
「続ける」ことだけが、正解ではない。「終わらせる」ことも、選択肢であると、覚悟を決めました。
現実の課題は、いつでも先送りできます。でも、それでは誰も守れない。
「そのうち」は、永遠に来ないかもしれません。出来なくなる日は、いつも突然やってきます。
だらこそ、「後では遅い」と思い、「今ならまだ、感謝も恩返し」もできる。だから、“今、ここで“の覚悟を決めました。
そして私の決断により、一番迷惑をかけてしまった私の大切な従業員にも、感謝を尽くしたいと思いました。今、ここで、「ありがとう」を伝えます
――これからの未来については、どのように考えていますか。
終わりを決めたことで、見えるものが変わりました。「終わり」というのは、決して後ろ向きではなく、次へ進むための一区切りだと考えます。今、ここで、現実に向き合ったからこそ新しい未来が開ける、そう信じています。
今回の閉店は、一つの歴史の終止符ではありますが、私たちがこれまで大切にしてきた「暮らしを豊かにする」という想いや、お客様との絆が消えるわけではありません。
むしろ、この決断を機に、また新しい形でお客様や地域に貢献できる道を探していきたいと考えています。
今はまず、この170余年の歴史を最高の形で締めくくることに全力を注ぎ、支えてくださったすべての方々に感謝を伝える。それが、今の私の、そして山口伊三郎家具の進むべき未来です。