うちには4匹の猫がいる。
 全員野良出身で、全員ブラック&ホワイト。
 妻の一周忌の日にひょっこり現れたきょうだい猫「とも」「もえ」、そして昨年保護した双子の「イン」と「ヤン」だ。
 僕がもともと動物とベタベタするタイプではないせいか、一緒に暮らしているはずなのに、みんな「家庭内野良」みたいな距離感。
 * * *
 そんななか唯一の女の子・もえだけは寝るときも一緒、ソファに座れば膝に乗ってくる、一番の仲良しだ。
 * * *
 そのもえが、このところ、しきりに水を飲んでいることに気づいた。
 ん??
 調べると「猫の多飲は腎臓疾患のサイン」とある。
 心臓がぎゅっとなった。
 うちは多頭飼いで水もごはんもトイレも共同。
 どれくらいの「多飲」か、すぐには判別がつかない。
 自慢の全自動猫トイレの体重判別機能も、4匹中3匹がほぼ同じ体重で役立たずだ。
 不思議なもので気になりだすと、どうにももえばかり水を飲んでいるように見えてしまう。
 * * *
 不安を解消するには病院に行くしかない。
 さっそく予約を入れ、あとはペットキャリーにもえを入れるだけ…のはずだった。
 ところがその気配を察してか、いつもなら呼べば弾むように寄ってくるもえが、警戒して一向に近づいてこない。
 大好物のおやつも効果なし。
 仕方なくソファで狸寝入りをして待つ。
 どれくらい待っただろうか。
 ようやく、そっと様子をうかがうようにもえが近づいてきた。
 ゴクリ…。
 * * *
 今だ、と手を伸ばした瞬間、するりとかわされ、あわてて尻尾を掴んでしまった。
 ああ、これがまずかった。
 危険を感じたもえが反転して僕の右腕にガブリ!
 鮮血がほとばしり、腕はみるみる腫れあがった。
 血が出たことにも驚いたが、それ以上に「仲のいい相手から牙をむかれた」ことに激しく動揺した。
 もえは逃げ、滴る血には他の3匹が近づいてきてペロリと舐めていく。
 いや、そうじゃないだろ。
 * * *
 その日は病院を諦めたが、僕の腕は激しく腫れて動かないし発熱と頭痛を伴い悪化。
 しかも同じ日、元保護犬の福も腰痛で動けなくなり別の動物病院へ行く羽目に。
 結局「猫も病院」「犬も病院」「僕も病院」のトリプル病院送り。
 しかも一番重症なのは僕だった。
 * * *
 血液検査とレントゲン、抗生物質と破傷風ワクチン。
 しばらく安静生活である。
 まったくもって情けない。
 けれど、思う。
 人間なんて素手では猫にすら勝てないくらい弱い生き物なのだと。
 * * *
 気がつけば、まだ子猫だったもえも、すっかり成猫。
 福もシニア犬の年齢になり僕も歳をとった。
 牙を立てられた跡を眺めながら、そんなことを考える。
 痛みや情けなさも、いま一緒に生きている証。
 動揺して、あたふたしてーーーそれでも同じ時間を歩いている。
 そのことが、何よりも愛おしい…と、思うことにした(無理やり)。