今回のお題は「老舗の味」。
これまでの編集者生活であらゆる老舗の世界に触れてきたけど、ここではストレートに小さい頃から慣れ親しんでいる、地元の和菓子屋さん「総本家駿河屋善右衛門」を紹介します。
総本家駿河屋善右衛門(以下、地元で呼ばれている「駿河屋」で)は、室町時代中期、現在の京都伏見の郊外で初代・岡本善右衛門が「鶴屋」という名で饅頭屋を開いたのが始まり。
時は流れて、江戸時代。
駿河屋の菓子をたいそう好まれた徳川家康の十男・頼宜が駿河(現在の静岡県)へ移られる際に同行し、さらに紀州徳川家を興す時も共に移ったことで和歌山での菓子作りが始まったとされています。

紀州藩主に献上した菓子として知られるのが「本ノ字饅頭」です。
参勤交代の時の携行食として納めていたそれは、本の字の焼き印がトレードマーク。
いわゆる酒まんじゅうですが、米麴を使って生地を天然発酵しているのが特徴。
しっかり目の皮をはむっとかぶると、ふんわりとした酒の香りとともに、甘さを抑えたこし餡が顔を出す。
城下町を代表する和菓子として、ちょっとした手土産としても重宝されています。
さて今回推したいのはプリンです。
1955年頃から販売されていて、可愛らしい手のひらサイズ。
当時は缶に入っていたことから「缶のプリン」と呼ばれていたと思います(現在はプラスチック容器)。
駿河屋の菓子はお中元やお歳暮にいただくことが多く、子どもの頃は包装紙のデザインを見るだけでウキウキしたもんです。
でも問題なのはその中身。当然ながらプリンが入っている保証はありません。
詰め合わせの内容がどら焼きや卵せんべいといったほかの和菓子ならあきらめがつくのですが、プリンと同サイズの水ようかんが入っていようものなら「半分はプリンにしとけよ~」と、たいそうがっかりしたのを今でも覚えています。

ちなみに奥が水ようかん。大人になると繊細なおいしさがわかります
大人になり、さらにシニアになって(笑)、季節の到来を表現する和菓子の素晴らしさに気づき、味も伝統も含めて和菓子を好むようになりました。
水ようかんも食べるようにはなりましたが、それでもやはりプリンの方が大好きで、店に行くと、他の和菓子とともに1、2個連れて帰ります。

缶時代ではできなかったお皿に載せてみました

するっと食べられるソフトな食感!
卵をたっぷり使った素朴な味わいは昔から変わっていません。
さらっとしているカラメルソースが蜜のようにとても甘くて、プリンを食べきっても缶を傾けて必死にすすろうとしていたっけ。
というか、今もしてます(笑)
いつか出世してプリンばかリ入った箱を買って、ひとりじめしよう!
などと子どもの頃は夢想していたものですが、簡単にそれができる立場になってみると(お金持ちにはなっていないけど)、1人でも多くの人たちにこの味をおすそわけしたい!という気持ちが強くあふれています。
このエッセイを読んでくださっている皆さん、和歌山中華そばもグリーンソフトもおいしいですが、県民が一度は食べたことのある、老舗の隠れた逸品を食べにお越しくださいませ!