仕事柄、手土産には毎度頭を悩ませる。
ただ、ここぞという場面では老舗の洋菓子喫茶「銀座ウエスト」のシュークリームと決めている。
著者や大切な方へ白い箱にずっしりと重いシュークリームを詰めて持っていくのだ。
近頃では著者への手土産を禁じる出版社もあると聞くけれど、この「手土産」、じつは立派な編集技術でもある。
できる編集者は、手土産ひとつでリサーチ力や気配り、センスまで表現する。
だから経営陣はケチなことを言わず、むしろ安い投資だと考えたほうがいい。
どうせ手ぶらで著者のもとへ行けるわけもなく、結局は編集者が自腹を切ることになるのだから。
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僕にとってシュークリームの原風景は、子どもの頃に食べたふたつの記憶にある。
町役場のある交差点のそばに、「さかいや」という間口が狭く奥行きのある店があった。
タバコ、駄菓子、豆腐、コロッケ、洗剤、文具、少年マガジンまで、なんでも揃うコンビニのような店だった。
そこに週に一度だけ、袋入りのシュークリームが並ぶ日があった。
底が少しへこんだシュー生地の中に、申し訳程度のカスタード。
でも、当時の僕にとって、おやつにそれが出る日は特別で、姉とふたり、半分ずつ大事に食べた。
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ところがある日、母が丸岡駅前の「丸見屋」から、見たことのないシュークリームを買って帰ってきた。
生地には粉砂糖が白くふられ、パカッと割れた生地の中から真っ白なクリームがのぞいている。
いつもの倍はあろうかという大きさなのに手に持つと軽い。
ひと口かじると、生クリームがどっとあふれ出した。
軽やかなのに濃厚で口いっぱいに甘さが広がる。
唇の端にクリームがつくのも構わず、夢中でかぶりついた。
このときの驚きは、駅前の農協のスーパーで初めてカレーパンに出合ったとき以来だった。
「世の中には、こんなに美味しいものがあるのか」と思った。
よほど嬉しそうにしていたのだろう、以来、母はときどき、こっそり買ってきてくれるようになった。
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ところでシュークリームといえば「生クリームか?カスタードか?」論争である。
歴史的にはカスタードが正統派。
16世紀イタリアの菓子職人がシュー生地に最初に詰めたのがカスタードだったという。
一方の生クリームはカスタードが作れなかった日の代替として生まれたともいわれている。
その点、先の銀座ウエストには、迷えるうれしい選択肢がある。
喫茶室限定で、カスタードと生クリームの両方が入ったシュークリームが用意されているのだ。
濃いめのコーヒーと一緒にそれをいただきながら執筆すれば僕の原稿は少しマシになる。
ちなみにこれを書いている今もそう。
どう??