ウィズコロナ時代に求められる空間のあり方やコミュニティデザインについて、建築家の小堀哲夫さんのトークを徹底レポート! 【デザインコネクト・レクチャー】

ウィズコロナ時代に求められる空間のあり方やコミュニティデザインについて、建築家の小堀哲夫さんのトークを徹底レポート! 【デザインコネクト・レクチャー】

こんにちは、ふーぽ編集部です。

第一線で活躍する講師と一緒に、新しい時代を切り拓くためのデザインのあり方を考えていく、デザインセンターふくい(公益財団法人ふくい産業支援センター デザイン振興部)主催の「DESIGN CONNECT LECTURE(デザインコネクト・レクチャー)」。

 

ニューノーマルな暮らしへの探求 ―ウィズコロナ時代に必要なデザインとは―」を大きなテーマに掲げた、全4回の講座(レクチャー)内容をひとつずつ紹介していきます。

デザインコネクトレクチャーの詳細はこちら

 

今回は、建築家・小堀哲夫さんのレクチャーをお届けします。

 

 レクチャーテーマ 
【LECTURE THEME】

価値の創造とコミュニティ

 

講師プロフィール
小堀哲夫 氏 株式会社小堀哲夫建築設計事務所/建築家
【代表作】
ROKI global innovation center -ROGIC-
NICCA INNOVATION CENTER
梅光学院大学 The Learning Station CROSSLIGHT


ウィズコロナ時代の空間づくりや建築、コミュニティはどのように変化していくのか、どのように価値を創造していくべきか語ってもらいました。

 

レクチャーは小堀さんが建築設計を担当した2017年11月にオープンの日華化学の研究開発拠点「日華化学株式会社 NICCA INNOVATION CENTER(以下:NIC)」で行われました。


会場となった「ガーデンスクエア」は、社員食堂として利用されるだけでなく、さまざまなセミナーや発表が行われる場でもあります。


この後の小堀さんの話の中にも登場するので、頭の片隅に置いておいてくださいね。

≫ふーぽ編集部がNICに潜入したレポート記事はこちら

使い手を巻き込みながら「関係性」をデザインする


設計を始める段階では、通常クライアントが要望をまとめるまで待つのが一般的ですが、これからの時代は条件整理や何が必要かを一緒に考えて進めていくことが重要になると考えています。

 

NICのプロジェクトに関しては、そういった企画の段階から参加したことが、これまでにない新しい建築をつくるきっかけになりました。

 


通常、建築グループは、建築をデザインし、形を与え、空間を作る立場であり、クライアント側は、空間の中でどういう活動をしようか考えるという立場に分かれています。

私たちと日華化学のみなさんは、ソフトとハードという役割分担をせず、お互いに影響し合いながらデザインしていこうと考えました。

そうすると普通であれば予定調和的になるところに、突拍子もないアイデアが出てくるんです。

 

例えば、普段は食堂でありながら、発表会やミーティングもできる場というのは、ワークショップで議論を重ねた結果生まれた空間です。

 

場のデザインを一緒に進めていくと、模型を見たときにみんなワクワクした表情になり、「じゃあこう働きたい」「こんな夢がある」という発想がどんどん生まれてきます。

 

つながりの関係性をデザインする」というのは私たちの考え方の大事な部分で、建築だけでなくいろんなことをデザインという切り口から全く新しい発想へつなげられるような場をつくっています

 

研究室をオープンにしたいという希望も日華化学の方から出たものです。

部門ごとのつながりが切れてしまっていては、新しいイノベーションは起きにくいという考えから、環境を変えることでつながりをどう築くかという議論がありました。

 

NICの場合は、建て替える前の社屋の研究所とオフィスの動線の中間に「白テーブル」という存在があり、その場所で活性な議論が行われて、新しいアイデアが生まれていたことを知りました。

新しい社屋にも、中心に自由な広場のような場所が必要だという考えのもと、ガーデンスクエアなどのオープンな空間につながっていきました。

 

ワークショップの回を重ねるごとに、デザインの主体が双方向に変わっていくのが感じられ、社員のみなさんには「働く場所は与えられるものではなく、自分たちで作っていくものなんだ」と受け止めてもらえたと思っています。

ワークショップに多くの人が関わることで、プロジェクトの過程で場所をどう使っていくか考えられているので、建物ができた後の場の生かし方や運営の仕方がとても上手いんです

 

企業からの依頼を受けて感じるのが、身内が意見してもなかなか聞いてくれない場合が多いということ。

組織は硬直化していくと、所属している人同士の良い関係性を自ら生み出せなくなってしまいます。

 

そこに私のような外部の者が入り、関係性をうまく捉えてデザインしていくと、組織内で意見を言いやすくなり、自然と良い技術やアイデアが生まれてきます

私はあくまでも関係性をデザインして、そのきっかけをつくっているだけなんです。

 

素材と技術を掛け合わせ、新たな可能性を生み出す

素材が建築の構造に与える影響力は非常に大きいと感じています。

建築家のルイス・カーンが残した、「レンガはアーチになりたい」という言葉があります。

かつてレンガという素材が登場したことで、アーチという建築構造ができるようになったことに基づき、「私たちはアーチをつくるために生まれてきたんだよ」と“レンガの方から語りかけてきている”という捉え方をしているんです。

 

エジプトのピラミッドができたのも、石という高く積める素材の特性を生かしているからです。

素材がどのように使われることを求めているか、見極めるのはとても大切だと思います。

 

NICの場合は、日華化学の「UVコーティング」という独自技術を生かして、非常に柔らかいというデメリットを持つ福井県産の杉材を家具として使うことに成功しました。

 

また、技術とデザインに関しては、良いバランスで引っ張り合う関係性が理想です。

私たちは常に優秀なエンジニアを求めていますし、優れた技術をもってる人は良いデザイナーを求めると思います。

引っ張り合うことで、技術的にもデザイン的にも右肩上がりで成長していけるのです。

 

自然とのつながりを生かした心地よい空間


近代建築には、地域差や衛生面などさまざまな問題から、全ての地球上に平等な建築空間を提供するという大命題があり、安全を考えた上でどうしても閉じられた空間になりがちでした。

 

しかし、今回新型コロナウイルスが広がり、閉じられた空間に対するリスクが暴かれたことで、改めて人間は自然に寄り添って生きなければならないということを考え直すきっかけになっていると思います。

 

私は、「自然環境を建築化する」というのを大きいテーマとして掲げています。

 

NICでは福井ならではの豊富な井戸水を生かし、壁の内部にあるパイプに水を循環させることで空調の役割を持たせている

NICの壁に差し込む日の光。あたたかみにほっと心が安らぐ

建築というのは単体ではなく環境としての相対だと考えていて、エネルギーとしての自然と建築が密接に絡み合っている世界観が好きなんです。

今後はますます、それぞれの土地が持つ特徴を生かし、建築と自然と人間、三者が良い関係性で成り立つ場をつくっていく必要があると感じています。

 

▲小堀さんが手掛けた「ROKI global innovation center -ROGIC-」。外とつながる縁側のような空間設計になっており、窓を開けて風が流れると空調が自動で停止する。自然の音が耳に入ってくることで体感温度が下がり、省エネかつそこで過ごす人たちの感性が刺激されるというしくみ(Photo : Takahiro Arai)

 

集まる意味の変化と空間のあり方

 

私自身は、ソーシャルディスタンスって実は良い状態だなと感じています

 

エドワード・T・ホールが行った、人間の親密な距離感についての研究(「かくれた次元」)によると、ソーシャルディスタンスとは半径1.2m~3.6mの距離を指しています。

 

これまでは人口の問題からパーソナルディスタンス(半径1.2m)で過ごすしかなかったのですが、これは個人のスペースを侵した距離であり、今は人が本来あるべき距離感に戻ったのだと捉えています。

 

 

新型コロナウイルスが広がって以降、社員が本社に集まるフィジカルな状態(図左下)から、いきなりデジタルな状態(図右下)に変化しました。

 

ZoomやTeamsを使った遠隔での仕事は、スピーディかつシェアが楽になっている一方、人同士が対面することで生まれていたインフォーマルなやり取りが失われてしまっていると感じています(図左上)。

 

相手の体調を気遣ったり、精神状態を感じ取ったり、そういった人間同士対面することで得ていた“勘”をデジタルの状態でどのように読み取るかが新しい課題になると思います(図右上)。

 

 

 

今までは組織だからと集まって仕事をしていましたが(図左)、これからはノマド的な生き方(図右)が主流になっていくと考えます。

 

「あの人と仕事がしたい」と思われる信頼関係を構築した人しか仕事できなくなる時代になり、そういう人がたくさんいる場に人が集うようになるのではないでしょうか。

 

これからオフィスが目指すべきは、“プロジェクトごとの空間”がある場だと思います。

プロジェクトごとに机があり、関連資料が手に取れ、一緒にプロジェクトを進めている人が目の前に集まってるという空間です。

 

そのためには、非常にフレキシビリティの高いつくりと、個人のニーズに合わせて容易に変更できるような場のつくり方が求められます。

ひとつひとつが遊牧民のパオのようになっていて、プロジェクトがなくなったら片付けてそれぞれ次の場所へ動く、そういう働き方ができる環境が良いと思います。

 

現在はアクティブベースワーキングがオフィスの主流であり(図左上)、大学はプロジェクトベースラーニングがトレンド(図左下)です。

 

今後はオフィスがプロジェクトベースワーキング(図右下)になり、一方の大学は、拠点を移動しながら学ぶアクティブベースラーニング(図右上)という言葉が生まれるのではと考えます。

 

大学についてもZoomで授業をするなら場所はいらないという議論がありますが、オンラインのメリットも生かしながら柔軟に学びの場の選択肢を増やすことで、新たな価値を生み出せると思います。 

 

▲小堀さんが手がけた「梅光学院大学 The Learning Station CROSSLIGHT」では、個々の教室という垣根をなくし、壁一面をホワイトボードにしたり、プロジェクターなどの機器を設置することで、さまざまな場所で同時多発的に授業ができるようになっている(Photo:Takahiro Arai)

 

エーゲ海の真ん中にあるデロス島は、紀元前、地中海文化の中心地であり、都市構造が全て集まっていた場所でした。

なぜその場所に集まったのかを考えると、第一に、その土地には、ゼウスの子どものアポロンとアルテミスが生まれた場所という伝説があり、その強いキャラクター性に人々は魅力を感じていたんですね。

新しく人が集まる場をつくるときには、まずはその土地の持つ神話のような“エピソード”を堀り出すところからスタートしてみましょう。

それをひとつの手掛かりに、土地をリスペクトしながら、少しずつ手を加えていくのが良いと思います。

最初から大きいプランを立てるのではなく、実験的につくり始め、関わる人を徐々に増やして、まちぐるみで進めていくと面白い場所が生まれるはずです。

 

ニューノーマルな時代への向き合い方

ウィズコロナの暮らしで少しずつ人と人との距離が生まれ、場の帰属意識が薄れ、不安を感じている人も多いと思います。

しかし、ウイルスとの戦いは歴史上に何度もあって、その度人類は乗り越えてきました。

今もまた、新しいステージを与えられていると捉えることもできます。

 

私たちのように設計やデザインをする側に重要なのは、不要不急だけど必要なものの価値を洗い出すこと

自粛ムードが高まる中、個人個人に必要な価値観は洗い出されてきています。

必要ではないと言われても、自分が生きるために必要なものは何なのか、真剣に考えるきっかけになっているのではないでしょうか。

 

不要不急だけど必要なもの、この概念こそが、人が集まる意味、コミュニティの役割は何なのかというのを浮かび上がらせるはずです。

それぞれが自分にとっての優先すべき事柄を考え、生き方を見直すことで、さらに良いコミュニティが生まれてくると思います。

※掲載内容に誤りや修正などがありましたら、こちらからご連絡いただけると幸いです。

※本記事の情報は取材時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。最新情報はお電話等で直接取材先へご確認ください。

ふーぽ編集部
writer : ふーぽ編集部

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