新型コロナ封じで流行中の妖怪「アマビエ」の正体とは? 本気のアマビエ研究者がわかりやすく解説します!【ふーぽコラム】

新型コロナ封じで流行中の妖怪「アマビエ」の正体とは? 本気のアマビエ研究者がわかりやすく解説します!【ふーぽコラム】


現在、Twitterなどネットで大流行中の妖怪「アマビエ」
 

その姿を描き写すことで、疫病の流行を防ぐご利益
があるといわれており、現在の新型コロナウイルス流行の中、さまざまな人がアマビエの姿を描いたイラストをネットにアップして、それが拡散しているんです。

 
だけど、そもそもアマビエっていったいどんな存在なのでしょう。

 
長年アマビエについて調査し論文を発表するなど、アマビエ研究の第一人者である長野栄俊さん(福井県在住)が、わかりやすく徹底解説します。
(※小見出しと「ひとこと」は編集部が挿入しました)


新型コロナウイルス流行によって、140年ぶりに現れた妖怪のナゾと真実とは?!

\このコラムが書籍に掲載されました!/
ネットで話題の「#みんなのアマビエ」が書籍化! 人気クリエーターらのイラストや立体作品が満載です。なんと「ふーぽ」も登場します!!!

 

アマビエってどんな妖怪? なぜ流行ったの?


SNS上に「アマビエ」という奇妙な妖怪の画像が蔓延している。


新型コロナウイルス感染症の”予防”になる(?)として、Twitterでは2020年2月27日頃から拡散し始めたようだ。

 

この甘海老(アマエビ)ならぬアマビエは、各地に伝わる河童や天狗とは異なり、江戸時代のたった1枚の「摺物(すりもの)」=「かわら版」だけに登場する珍種の妖怪である。


その摺物にはこう書かれている。

肥後(熊本県)の海に毎夜光るモノが現れるというので、役人が見に行くと、果たして図のようなモノが出現した。

「私は海中に住むアマビエと申すもの。今年から6年間は諸国で豊作が続くが、病も流行する。早々に私の姿を写して人々に見せよ」と言って海中に消え去ったという。



役人が写し取り、江戸に伝えたとする図には、長髪にクチバシ、体にウロコ、3本の足(ヒレ?)という異形が描かれている文末には弘化3年(1846)4月中旬との日付が入る。


『アマビエ』(京都大学附属図書館所蔵)


ふーぽ編集部のひとこと

 
なるほど。

アマビエが言った「私の姿を写して人々に見せよ」という言葉から、新型コロナウイルスの感染収束を願った人たちが、Twitterで投稿しまくったわけなんですね。

それにしても、この絵ってどこかのヘタウマ漫画家が描いたみたいなタッチ。。
 

 

名前が似ている、妖怪「アマビコ」登場!!


妖怪研究者は、アマビエを”予言獣”に分類する。

つまり他にも予言する類似の妖怪がいるわけだが、そのなかに名称の酷似する近親種「アマビコ」がいる。



筆者はこれまでに十数例のアマビコ資料を確認しており、2本の論文を発表してきた。

しかし、そのアマビコの知名度は、アニメ「ゲゲゲの鬼太郎(第5期)」にまで登場し愛嬌を振りまいたアマビエの”ヒレ元”にも及んでいない。


アマビコには摺物も数例あるが、大抵は書き写された状態で伝わる。そのため名前の表記が、あま彦や海彦、尼彦、雨彦、天彦、阿磨比古など多様だ。

 

『越前国主記』より「海彦(アマビコ)」(福井県立図書館蔵)


その一方で容姿(図)は巧拙あるものの”三本足の猿”の形状が多い。


いずれも豊作と病の流行、結果として人類6~7割の死(!)を予言しており、自身の姿を「書き見る」人は無病長寿になると告げている。

 

「コ」を「エ」に書き間違えた?! 


最も古い資料は、天保14年(1843)9月頃に名古屋で書き留められた「あま彦」で、アマビエからさかのぼること約3年。


つまり、アマビエとは先行するアマビコの「コ」の字を「ヱ(エ)」に書き誤った、あるいは意図的に改変した亜種と推測されるのである。

アマビコ資料は越前(福井県)でも2例確認されており、どちらも天保15年(1844)の年紀を持つ。
名古屋には備後(広島県)から情報がもたらされたといい、その流行から半年ほどを経て越前に到着したことになる。

アマビコは「姿を写して諸国に早々に触れ回れ」とも告げていたが、その通りに全国的に広まっていたようだ。


ふーぽ編集部のひとこと

 
えええ!! 書き間違いって?!!

「アマビコ」のほうが資料が古いんですね。

確かに「コ」と「ヱ(エ)」は似ているし、あり得るかも。。。
 
 

 

なぜ「アマビエ」を「書いて人に見せる」の?


では人々はなぜ、このように胡散臭いハナシと図像を書き写し、広めたのだろうか。


一つの理由として、珍獣・幻獣の姿を「見る」と除災招福の御利益が得られるとする心性の存在が挙げられる。


舶来の象やラクダ、はたまた人魚を描いた摺物は”護符”としての機能も持ちあわせていた。見たり、貼り置いたりするだけで寿命が延び、悪事災難から逃れられると人々は考えたのである。


そのため安政5年(1858)のコロリ流行時には、虎列剌(コレラ)除けの摺物として「猿に似たる三本足の怪獣」の絵姿が江戸市中で売り歩かれた

また明治15年(1882)にも東京の絵草紙屋(娯楽書や浮世絵の店)で「三本足の猿の像」が「コレラ病除けの守り」として売られた



これらはともにアマビコであろう。

 

「書き写して伝える」ことの意味とは??


もう一つの理由は、情報を得るための「書き写す」という行為が、現代からは想像できないほどの広がりを見せていたことである。


政治や災害など多様な情報を得るため、地方の豪農商や村の知識人までもがこぞって風説(情報や噂)を書き写した。
今も全国各地に当時の情報記録集(風説留)が伝わり、その中に予言獣の姿が書き留められている。


護符の効能を妄信したのでなく、単に新奇なものを面白がって書き留めただけという可能性もある。


アマビコの姿を「見る」「書き写す」というお告げは、19世紀初頭から明治初年にかけての人々の思考や心性、行動様式にマッチした。

だからこそ予言する妖怪は、この時期に限って様々に形を変えて流行した。


しかし、新しく誕生したマスメディア=新聞の登場と入れ替わるようにして、その流行は終息する。


天保・安政・明治と少なくとも3度にわたって流行を見せたアマビコ(アマビエ)は、以後長く忘れ去られることになった。

 

東京・深川で開かれた「深川お化け縁日」で買い求めたアマビエ人形(筆者蔵)

あの「いらすとや」に登場した「アマビエ」のイラスト(ふーぽ編集部挿入)


ふーぽ編集部のひとこと

 
新聞、テレビ、ネットなどのメディアがなかったから、みんなせっせと描き写したんですね。

つまり現代人たちがTwitterで「アマビエ」を拡散するのは、方法が違うだけで、昔の人と全く同じことをやっているわけか。
 

 

では、「アマビエ」のご利益は、あるのか?


最後の流行からおよそ140年。

コロリならぬ新型コロナの流行に直面する私たちは、SNS上でアマビエの姿を見て、リツイートや二次創作によって拡散を続ける。


では、ご利益はあるのか? 


じつは亜種であるアマビエは「早々に私の姿を写して人々に見せよ」とは告げるが、その御利益は明言していない。


一方、原種のアマビコの方は「私の姿を見る者は無病長寿、早々にこのことを全国に広めよ」と告げている。


SNSで見て、拡散すべきは「アマビエ」ではなく「アマビコ」の方かもしれない。



今回のSNS上でのアマビエ大流行からは”予言”の要素が抜け落ちており、護符の面のみで拡散しているようだ。

アマビエでもアマビコでもどちらでもいいが、せめて新型コロナ流行の一日も早い終息を”予言”してくれないものか。

 

筆者が古い文献から見つけた「アマビコ」の絵を表紙につかった論文集。筆者の論文「予言獣アマビコ・再考」が収録されている

【参考文献】
・湯本豪一「予言する幻獣」(小松和彦編『日本妖怪学大全』小学館、2003年)
・湯本豪一『日本幻獣図説』河出書房新社、2005年
・長野栄俊「予言獣アマビコ考」(『若越郷土研究』49巻2号、2005年)
・長野栄俊「予言獣アマビコ・再考」(小松和彦編『妖怪文化研究の最前線』せりか書房、2009年)
・常光徹『予言する妖怪』歴史民俗博物館振興会、2016年

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※本記事の情報は取材時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。最新情報はお電話等で直接取材先へご確認ください。

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