「路面電車は文化都市の象徴」/ 鉄道写真家・エッセイスト 南 正時③【ふーぽコラム】

「路面電車は文化都市の象徴」/ 鉄道写真家・エッセイスト 南 正時③【ふーぽコラム】

福井にゆかりがあったりなかったりする、いろいろな書き手がよしなしごとを書き綴る「ふーぽコラム」。

今回は、福井県旧武生市(越前市)出身の鉄道写真家・エッセイスト 南 正時さんの3回目です。

路面電車は文化都市の象徴。

 1975年に初めてヨーロッパの最新鉄道事情を取材すべく渡欧した際の初日、雑踏のパリから夜行列車に乗ってスイスに向かった。

 一夜明けると車窓には雪を頂いた山と湖が広がっていた。早朝のチューリヒ中央駅に到着して駅前に出ると、そこはバーンホフシュトラーセ(駅前通り)で、トラム(路面電車)と歩行者だけの通りで車は一切なかった。
何かホッとした気持ちになり、初の欧州の旅の緊張がほぐれたものだった。


 以後、毎年数回の渡欧を繰り返すうちに、駅に降りて駅前にトラムを見ると心が癒されると同時に、トラムのある街は文化水準が高い都市だと感じるようになった。


 かつて古都パリにもトラムが走っていた時代があったが、時代遅れ、車の邪魔という理由で消えた。

 パリと同じ古都である京都にも、かつて環状線などの市電が市内を縦横無尽に走っていた。パリは世界遺産都市のメンツからか1992年にサンドニ地区でトラムを復活したが、わが国では京都をはじめ、東京、名古屋、仙台、横浜などの大都市からトラムは縮小したり姿を消した。


 今、世界遺産都市京都は大勢の観光客の足を路線バスに頼りシーズン中は超満員。すでに輸送力が限界に達している。これが古都京都の文化水準であろうか。



 閑話休題。わがふるさと福井県には全国の路面電車ファン垂涎のトラムがある。
 福井鉄道福武線の電車は福井市内から郊外電車に変わり武生に至るトラムだ。日本では珍しいこの郊外型トラムはスイス、ドイツでは当たり前のもの。
 福武線はドイツのインターバーン(都市間)方式をとり、不定期で走る「レトラム」は元ドイツのシュトゥットガルトの市電の名車を再利用している。


 こうして古きよきものを大切にすることが路面電車の文化的価値であり、その光景が都市の文化水準の高さを表す・・・と私は思う。


 2016年に福鉄のトラムは福井駅まで延伸し、えちぜん鉄道のトラム「ki-bo」が福鉄と相互乗り入れを開始した。これこそ福井県のトラム文化の高さを表す快挙であると、ふるさとを離れて暮らす私は誇りを感じる。

 特急「しらさぎ」から降り、駅前に出てあのカラフルな「FUKURAM」や重厚な「770形」を見ると、かつてのチューリヒ中央駅での風景を思い出し「福井のトラムはいい」と安堵する私である。



南 正時(みなみ・まさとき)

1946年、旧武生市生まれ。70~80年代に「鉄道大百科」がヒット。
世界中の鉄道を取材し、雑誌やテレビなどで活躍中。

※掲載内容に誤りや修正などがありましたら、こちらからご連絡いただけると幸いです。

※本記事の情報は取材時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。最新情報はお電話等で直接取材先へご確認ください。

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writer : ふーぽ コラム

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