ゴールデンウィークに息子が結婚式を挙げた。
ここ10年近く、寂しい別れのセレモニーばかりが続いていた小林家だが、昨年あたりから結婚や出産などおめでたい話題が増えてきた。
人生には季節が巡るような周期がある。
今は春から夏へと向かう頃のように、明るくやわらかな日差しが心を満たしている。
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式場は有名な文学賞の会場としても知られる都内の格式高い会館。
チャペルや披露宴会場、スタッフの対応や所作に至るまで、どこをとっても完璧だった。
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当日の早朝、犬の福と4匹の猫たちに「留守番よろしくね」と声をかけ会場に向かった。
到着すると担当スタッフが丁寧に出迎えてくれ、「お父様、昨晩はよく眠れましたか?」という温かい気遣い。
「あ、はいはい、爆睡でしたよ」と軽く答える。
正直なところ、息子の結婚式だからといって、特別感慨深くなるわけでもないだろうと気楽に構えていたのだ。
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厳かな雰囲気で執り行われた式に続き、披露宴が始まった。
馴れ初めのVTR、友人代表の挨拶……和やかに進んでいく。
息子は隣の可愛らしい花嫁さんを見て終始満面の笑顔だ。
「こんな嬉しそうな顔、見たことないな」とぼんやり思った瞬間、突然僕に異変が訪れた。
あれ? あれれ?
涙が止まらない。
鼻水も止まらない。
自分の感情をコントロールできない状況に戸惑う。
いやいや、妻のお葬式のときだってこんなにならなかったのに……。
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34年前、自分たちが式を挙げたときのことを思い出した。
福井らしく盛大な結婚式を挙げろと伝統を押し付けてくる父、どうしても角隠しの花嫁衣装を見たいと譲らない母、そしてスマートでおしゃれな式を挙げたい僕ら夫婦の価値観が激しくぶつかり合った。
結局、誰も一歩も譲らないまま、芦原温泉の宴会場で式を挙げることになった(なぜ温泉?!)。
頭に合わないかつらを無理やり被せられた妻に、僕が東京から連れてきたヘアメイクアップアーティストが施した前衛メイクは花嫁というより"小梅大夫"。
会場には必須とばかりに紅白の横断幕が張られ、披露宴が始まるとコンパニオンと福井のおんちゃん衆が踊り出し、しまいにはカラオケ大会の様相。
はちゃめちゃだった。
その後、妻は死ぬまで結婚式の写真をみたいと言わなかった(笑)。
ま、それはそれで苦笑いとともに懐かしい思い出だ。
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そんな自分たちの式とは対照的に、あくまでもスマートで常識を心得た息子たちの式に、心から祝福の拍手を送った。
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最後に式場のスタッフの方から、
「実は福ちゃんの大ファンなんです。まさかこばへんさんの息子さんの門出をうちで祝えるなんて感激です」
と、こっそり嬉しい告白もあった。
本当に幸せな一日だった。
どうぞ末永くお幸せに!