【犬と猫と人間(僕)の徒然なる日常。】第15話:雨は嫌いだった。

【犬と猫と人間(僕)の徒然なる日常。】第15話:雨は嫌いだった。

こんにちは、ふーぽ編集部です。

福井新聞社が発行するローカルライフマガジン「月刊fu」で連載中のエッセー《犬と猫と人間(僕)の徒然なる日常。》

福井県出身の編集者、小林孝延さんが、犬1、猫4との暮らしを、のんびりと綴っています。

第15回は、フリーランスになった小林さんが福と一緒に出かけた雨のキャンプで、さまざまに思いを巡らせます。

ところでふーぽ読者のみなさんはお気づきでしょうか…。回を重ねるごとに、小林家の猫の数が増えているのを…。今後もどうぞご注目(?)ください。

小林孝延
こばやし・たかのぶ

編集者・著者。福井県出身。扶桑社発行の雑誌「天然生活」「ESSE」元編集長。石田ゆり子著「ハニオ日記」(扶桑社)、「保護犬と暮らすということ」(扶桑社)などを編集。犬1、猫4と暮らす。釣り好き。新著「妻が余命宣告されたとき、僕は保護犬を飼うことにした」(風鳴舎)が好評発売中。公式Instagram

第15話:雨は嫌いだった。

天気予報では雨の心配はないということだったが、気づけば土砂降りになっていた。

テントを叩く雨音がうるさくて、ごはんをねだる福の声も聞こえないくらいだった。

* * *

3月で勤めていた出版社を辞めてフリーになった。

フリーになったらまずは帰る時間を決めないキャンプに福を連れて出かけたいと思っていた。

とはいっても猫たちの世話もあるから、本当の意味で気ままな旅とはいかないけれど。

それでも「せっかくだから気兼ねなくリフレッシュしてきて」と言ってくれた友達に猫を託して信州に向かったのだった。

* * *

キャンプで雨が降ると、片付けがとっても面倒でうんざりする。

ぐっしょり濡れて枯れ草や泥のへばりついた道具をなんとか畳んで車に詰め込んで、家に帰ったら乾かして泥を落としてメンテナンスしなくちゃいけない。

だから雨は嫌いだった。

でも、今日は心から「ああ、雨のキャンプはいいなあ」と思えている自分がいた。

雨が止むまで無理して帰る必要はない。

むしろ書かなければいけなかったいくつかの原稿をこの機会に仕上げてしまおう。

そう思うと、テントを叩く雨音が集中力を高めてくれるちょうどいいノイズになった。

心の持ちようひとつでここまで感じ方が違うものかと自分でも驚いた。

* * *

信州の山中ではまだソメイヨシノが満開だったが、急な雨で冷え込んだ空気が息を白く曇らせる。

テントに置いた屋外用ストーブは昨年社会人になった娘が初任給で買ってくれたもので、体ばかりか心まで温めてくれた。

傍の福はというと、ごはんを諦めたのか、うとうと船を漕ぎ出していた。


心は不思議だ。

置かれた環境がどんなに理不尽でも、不自由でも、いったん受け入れてしまえばいつしか慣れて、そのことを感じなくなっていく。

正確に言えば感じていることを感じなくしている。

気づいたら耐えられないから、心が自分を守るために蓋をするのだ。

鎖につながれ、行動範囲を制限された可哀想な犬は思い切り自由に野を駆けることはできないが、自分にとっての自由は鎖の範囲だけだといつの間にかその運命を受け入れていく。

組織から離れて1人になって解き放たれた僕の心が今、野山を駆け巡っていた。

* * *

雨があがったら福を連れて釣りに行こう。

ここら辺で釣れるマスはとびきり美味い。

まるでマグロの大トロのように脂がのった紅色の身は口に入れた途端しっとりと、とろける。

いやいや、こうやって皮算用したときはだいたい肩を落として帰ることになると相場が決まっている。

欲張らず、ほんの少し楽しめたらそれでいい。

* * *

春の雨はまだ力強くテントを叩き続けていた。

キャンプの時は僕と福でステーキを半分ずつ食べるのがお決まり

※掲載内容に誤りや修正などがありましたら、こちらからご連絡いただけると幸いです。

※本記事の情報は取材時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。最新情報はお電話等で直接取材先へご確認ください。

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writer : ふーぽ編集部

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