発酵デザイナー小倉ヒラクの《ほくりく発酵ツーリズム》-第16回-敦賀の蔵囲昆布(福井県編)

発酵デザイナー小倉ヒラクの《ほくりく発酵ツーリズム》-第16回-敦賀の蔵囲昆布(福井県編)

ふーぽ読者のみなさん、こんにちは。
発酵デザイナーの小倉ヒラクです。

福井新聞社が発行するローカルライフマガジン「月刊fu」で連載中の《ほくりく発酵ツーリズム》を、ふーぽでもお届けしていきます。

福井県をはじめ、石川・富山を含めた“北陸”の発酵文化を紹介します。

発酵から北陸の歴史や気候風土を読み解いていきましょう!

 

発酵デザイナー 小倉ヒラク

1983年東京都生まれ、山梨県在住。文化人類学と発酵学を独自に融合させた「発酵文化人類学」を展開し、「発酵デザイナー」の肩書で微生物研究や食文化の普及に取り組む。2022年9月17日(土)~12月4日(日)まで金津創作の森美術館(福井県あわら市)にて「Fermentation Tourism Hokuriku ~発酵から辿る北陸、海の道」を開催中。9/30に「発酵ツーリズムほくりく」を発行。

展覧会詳細は金津創作の森美術館HPまで
展覧会公式サイトはこちら
著書「発酵ツーリズムほくりく」についてはこちら

北前船の前半戦の歴史では、敦賀は北海道と京都をつなぐ重要な港でした。

北海道から運んだ物資を敦賀で荷降ろしし、そこから琵琶湖を使って京都に届けていたんですね。

水陸切り替える流通路なので、なるべく軽くて高く売れるものが望ましい。そこで注目されたのが、昆布。

 

古くは平安時代頃から、ごく稀に流通する激レア産品として神様や高貴な人々に捧げられてきた昆布の流通を産業化させるべく、北海道→敦賀→京都という貿易ルートが開発されました。

 

魅惑の熟成昆布

熟成した昆布

和食には欠かせないダシの筆頭、昆布は江戸時代以前までは神饌のお供え物や精進料理の特別な席の時にしか見かけない超高級食材でした。

なぜそんなにも昆布が重用されたかというと、グルタミン酸という強烈なうま味成分が豊富に含まれているからなんですね。

北海道からのルートが整備されると、敦賀は京都への中継地点として、昆布の港となりました。

今でもその伝統を受け継ぐのが、奥井海生堂。

京都はじめ全国の高級料亭御用達の昆布商です。

 

奥井海生堂では、工場の奥に「蔵囲昆布」と呼ばれる、熟成をかけた高級昆布の蔵があります。

なかには風格のある木箱がズラリと並び、濃い緑に艶めくヴィンテージ昆布が眠っています。

表面にはうっすらと白い粉が。

昆布特有の、うま味と甘味の相まったマンニトールという成分の結晶です。

 

「これは三十年熟成の昆布。京都の料亭さんは、若い昆布の磯の臭いを嫌うんですね。『精進臭い』言うてね。ところが熟成をかけていくと臭みが消えて、品の良い香りになるんです」と代表の奥井隆さん。

この昆布とかつお節で合わせダシを取ったら、この世のものとは思えない極上のスープになりそう…!

 

昆布も発酵する?

和食に欠かせない昆布。

同じうま味を演出する発酵調味料とも相性バッチリ…どころか、実は昆布自体にも微生物による発酵作用があります。

つまり昆布も発酵食品なのですね。

 

そもそも昆布とは何か?

北海道の海岸で採れる細長い海藻を海岸沿いの石場で干して乾燥させたもの。

北海道の各沿岸でブランドがあるなかで、奥井海生堂が主に扱うのが利尻昆布です。

 

とりわけ稚内の先にある利尻島・礼文島周辺で採れる質の良い昆布が、京都の高級料亭へ。

利尻昆布は繊維が固く、ダシ取りに時間がかかるぶん、色が澄み切って上品な味わいになります。

料理に色が付くことを嫌い、淡味を好む京料理に相性ぴったり。

 

そもそも臭みのない上品な利尻昆布を、さらに敦賀の蔵で熟成させる。

すると、和食の発酵食品でおなじみの、うま味をつくるカビや酵母、乳酸菌などが働き、昆布の成分が分解され、うま味や甘味が蓄積されていきます。

同時に磯の臭いが抜け、発酵の醸し出すかぐわしさに変わる。

 

▲昆布を熟成させる蔵

 

和食の、軽やかで心地よく、複雑で余韻のある味わいを演出する最高のダシになるのですね。

この発酵作用はもともと北海道から近畿地方へ時間をかけて昆布を運搬するうちに偶然起こった作用なのではないかと考えられています。

奥井海生堂では、この作用を自身の蔵の熟成過程で行い、よりクオリティの高い昆布に仕立てているんですね。

 

奥井さんのワークショップに参加すると、ワイングラスに昆布のダシ汁を注いでの昆布テイスティングが体験できます。

ワインも昆布も熟成を尊ぶ文化。微生物を介在させることで、時間を味方につける。

歳を重ねるほどに品が良くなっていきます。

僕も度々ヨーロッパや中国に仕事で行くのですが、昆布はじめダシ文化の熱の高まりを大いに感じているよ…!



いかがでしたか。

北陸の発酵文化を訪ねる《ほくりく発酵ツーリズム》

次回もお楽しみに!

【連載】ほくりく発酵ツーリズム
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