「誰もが持つ感覚や感情を 手かがりに表現を組み立てる。」映像ディレクター・牧野 惇さん【ふくい人に聞く】

映像全体を統括するディレクターの立場だが、求めるイメージのためには自らの手間を惜しまない。

一つ一つ絵柄の異なるマッチ箱を60個以上、ハンコを100個以上手作りしたり、手描きした棒づかい人形を自分の手で生き生きと操ったり。
山奥の秘境の森林に300本以上のビール瓶を並べてコマ撮りしたこともある。

「もちろん僕はプロなので、時間と予算を考えながら、可能なところはCGも使います。だけど、とことん手をかけて実写することでしかたどり着けない表現が確実にあるんです」

高校時代、人気RPGゲームのCGに魅了され、名古屋の芸術系大学へ進学を決めた。
在学中にアニメーション制作に興味を持ち、縁あって京都の大学に週2、3回高速バスで通うことに。

さらに卒業後は、独特の映像表現で知られるアニメ大国・チェコの美術大学に2年間留学した。
チェコで学んだことは主に二つあるという。

一つは、毎日毎日ヌードデッサンに励み、弱点だったデッサン力に自信を持てたこと。

「もう一つは、ともすれば〝自己表現〞になりがちな作品制作を、観る人が第一の〝ビジネス〞と徹底するアニメ大国ならではのシビアな姿勢です。今の仕事にも生きていますね」

帰国後は、東京芸術大学大学院に進学。在学中から映像制作の仕事に携わるようになった。

牧野さんの発想の根底にあるのは、福井で過ごした日々の記憶や感覚だという。

「現実とかけ離れたファンタジーをゼロから作り上げても、観た人には響かない。僕が狙うのは、誰もが持っている感覚や感情を手掛かりに共感を呼び覚ますような表現なんです」

そのための近道は、自分が育った福井から得たものを掘り下げることだと話す。

「社会に出て働き始めたのが遅かったので、仕事が面白くてしょうがないんです。休みがあると逆に不安になるぐらい」と笑う。

ただ機会があればなるべく福井に帰って、昔の通学路や遊び場だった神社を歩きたいと言う。

「それが僕の制作活動にとって最高の刺激になるから」