「モッコ刺し」から教わった徳の美。【生活芸人・田中佑典のふくい微事記~三国町安島編~】

「モッコ刺し」から教わった徳の美。【生活芸人・田中佑典のふくい微事記~三国町安島編~】

こんにちは、生活芸人の田中佑典です。

往復約900km。福井県を徒歩で横断する「微遍路(びへんろ)を終え、歩んだ道のりをもとに「微住街道」をマッピング。

街道の途中で出合った出来事を「微事記」として記し紹介します。

今回は【三国安島編】です。

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田中 佑典
さん

台湾と日本をつなぐプロデューサー。
一定期間地域に滞在し、“ゆるさと”づくりをする旅『微住』の提唱人。
2021年東京から福井市にUターン。
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伝統工芸“モッコ刺し


東尋坊の沖合、雄島のある三国町安島(あんとう)地区。

数キロ先の港町とは趣の違う町並みを歩いていると、1人の海女と出会った。

生まれも育ちも安島で、現在海女として暮らしている石森実和さんだ。

道中、彼女に希少なワカメや海産物をいただいた際に、この地域に伝わる伝統工芸 「モッコ刺し」を教えてもらった。

雄島祭りで披露した「安島モッコの会」の刺し子の法被


かつて安島では、男性は明治時代までは北前船、その後は貿易船の船員として一年のほとんどを海の上で暮らしてた。

女性は海女として生活を支え、一年に数回しかない夫の帰りを待つ。

そのため冠婚葬祭は女性が中心で、神輿(みこし)も女性が担ぐ。

そんな女たちには海女仕事の合間に刺し子を施す習わしがあった

興味深いことに、刺し子で有名な「津軽こぎん刺し」や「庄内刺し子」も北前船の寄港地である。

安島に伝わる無形民俗文化財「なんぼや踊り唄」(右)と、女性が神輿を担ぐ「乙女神輿」(左)の様子


安島では男性の仕事着だけではなく、女性の着物にも刺し子を施し、それを「モッコ刺し」と呼んでいる。

織物が十分に手に入らない貧しさの中で生まれた“用の美であるモッコ刺しは、やがて時代とともに姿を消していった。

 

しかし現存するモッコ刺しの着物から安島ならではの技法が紐解かれたことをきっかけに、その価値を継承するため、2017年に「安島モッコの会」が設立された。

今では現役の海女の石森さんたちを含め、約20名が活動している。

微遍路中「安島モッコの会」から贈られたモッコ刺しのマスク


僕はモッコ刺しの話を聞いた時、「徳を積む」という言葉が頭に浮かんだ。

自分の“辛さに一針を加えて、誰かの“幸せに仕立てる。

自分の“得にはならないが、相手を想いやる心が“徳を積むことになる。

海女たちはいつも家族やまわりの人たちのことを想い、辛くても針を刺し続けたのだろう。

朝鮮の言葉にも影響を受けている安島弁には、福井弁にはない単語が多数ある


微遍路ではコロナ禍にもかかわらず、多くの方々が僕を家に泊めて、ご馳走までしてくれた。

決して何の得にもならないはずなのに…。

モッコ刺しの着物の縫い目に触れた時 「“得ではなく“徳だったのだ」と、気付かされた。

「安島モッコの会」のメンバーである現役海女の石森実和さん(右)と、倉野恵子さん(左)

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