紋紗に紗を重ねて袷(おわせ)仕立てにした「紗袷(しゃあわせ)」に、ブルーのグラデーション帯がエレガントな中野裕子さん。
6月下旬のこの日は“大人の女性が着物を楽しむ”ために不定期で開く「着物を楽しむ会」で、気のおけない仲間とフレンチを楽しみました。
紗袷は本来、春から夏に移る短い期間だけの贅沢品ですが、中野さんは“着物は体感で着る時代”だと言います。
「季節の分かれ目があいまいな今、着物と季節の関係性も変わっています。着物へのハードルを下げる良い機会だと思うんです」
中野さんが「これ以上のものに出合っていない」と語る一枚も、一般的には夏物とされる生地。
麻で織られた「小千谷縮(おぢやちぢみ)」はしわの加工で体に張り付かず風が通るのが特長です。
一枚なら浴衣、長襦袢(ながじゅばん)を合わせれば着物として着られ、「春から重ね着すれば秋まで。自分で洗濯できてアイロン不要なので、出張や旅行にも重宝しています」と話します。
自分に似合うものを必要なだけ調える、というのが中野さんの流儀。
そうすることで、ものを必要以上に増やさず、たんすのこやしもなくせるのだとか。
「昔から『着物一枚、帯三本』という言葉があります。着物一枚に帯が三本あれば、三枚着物を持っているのと同じくらい着こなしの幅があるということ。自分に合った素材を一枚持っていれば、着こなし次第で一年を通して着物を楽しめます」
主宰する着付け教室もユニークで、その人が求める和装スタイルを引き出すことを第一としています。
「まず何をどう着たいかを一緒に考えます。自分が着たいスタイルが分かれば、そこに集中し、3カ月で着られるようになります」
最初は趣味が高じて始めた着付け教室から、本格的に学びたいと京都に通って古典的な着付けを修得し、講師の経験を積んできました。
日本とインドネシアの国際交流イベントでバリの染め織り文化に出合い、「お互いの民族衣装を通じて心の交流ができたら」と、オリジナルブランドを創設。
日本と世界の伝統技術をつなぐ「朔(さく)」や、民族衣装文化が融合した製品を作る「bulan purnama(ブランプルナマ)」など多岐にわたります。
同時にバリやジャカルタに着付け教室を開きました。
この7月からは沖縄でのプロジェクトもスタートするそう。
「日本や中国文化にもまれて本来の姿が変化した『琉装(りゅうそう)』を見直し、和装と琉装を合わせた現代の“沖縄スタイル”を作りたいと思っています」。
和装文化や日本文化を次世代に送り届けるべく、文化交流を通して、さまざまな形で着物の魅力を伝えていきます。