先日、とある媒体で一緒に連載記事を書いているパリ在住の文筆家・猫沢エミさんとトークイベントを開催した。
赤坂の会場に到着し、車から降りたその瞬間、ポケットから財布を落としてしまった。
なぜこんなに明確に落とした状況を把握しているかというと、財布に紛失防止タグ「エアタグ」を忍ばせていたからだ。
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「ピローン♪ 財布が手元から離れました」と、タグからお知らせが来る。
慌ててポケットをまさぐるが財布はない。
まずい!!
スマホを取り出して確認すると、財布が僕の現在地とは違う方向にずんずんと移動しているではないか!!
大慌てで財布を追跡。
しかし、週末の赤坂の人混みにまぎれて、どこに財布があるのか?
そこまではわからない。
あの人も、この人もどの人も僕の財布を持っていそうで疑いの目を向けてしまう。
そのうち財布は今来た道とは逆方向に進みだした。
まるで尾行する探偵のように僕はその軌跡を追いかけ、結局は財布が交番に吸い込まれていく様子を見届けたのだった。
疑ってすみません。
日本は素晴らしい国!
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無事に財布を受け取ってひと段落・・・のはずが、その翌日、今度は矯正用のマウスピースを落としてしまった。
打ち合わせ先でどら焼きをいただいた時に、うっかり床に落としてしまい、見つけた時にはわんちゃんに齧(かじ)られたあとで見るも無残な姿になっていた。
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実は僕はその後海外に発つ予定で財布もマウスピースもどちらもなくすわけにはいかないタイミングだった。
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そう、こんな時に限って!! なのだ。
いったいこれはなんの因果か法則か。
いやいや、こんな時だからこそなのか。
ありったけ予定を詰め込んで無理やりこなそうとしているから、一つ一つが疎かになるのだと自覚している。
少し前、この連載で書いたマインドフルネスの効果が、今ここで発揮されない自分が情けない。
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ふうっと息をつき、家に戻った僕は、自分の「大切なもの」について考えた。
財布にしろマウスピースにしろ、手放せないものが増えすぎているのだろう。
それが時折、本当に大切な物を見失わせる原因になっている気がする。
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これからの人生を考えると、もっと身軽になりたい。
持ち物も、予定も、心の中も。
そして、究極的に大切なものとは、愛すべき周りの人たち、そして大切な犬と猫たちだけではないだろうか。