【犬と猫と人間(僕)の徒然なる日常。】第18話:水浴びするはずだったのに。

【犬と猫と人間(僕)の徒然なる日常。】第18話:水浴びするはずだったのに。

こんにちは、ふーぽ編集部です。

福井新聞社が発行するローカルライフマガジン「月刊fu」で連載中のエッセー《犬と猫と人間(僕)の徒然なる日常。》

福井県出身の編集者、小林孝延さんが、犬1、猫4との暮らしを、のんびりと綴っています。

第18回は、‟わくわく”が大渋滞の夏男、小林さんと愛犬・福の朝の散歩から始まります。

小林孝延
こばやし・たかのぶ

編集者・著者。福井県出身。扶桑社発行の雑誌「天然生活」「ESSE」元編集長。石田ゆり子著「ハニオ日記」(扶桑社)、「保護犬と暮らすということ」(扶桑社)などを編集。犬1、猫4と暮らす。釣り好き。新著「妻が余命宣告されたとき、僕は保護犬を飼うことにした」(風鳴舎)が好評発売中。公式Instagram

第18話:水浴びするはずだったのに。

ずっと降り続いていた雨が上がった朝、福の散歩のために玄関ドアを開けると、うるさいくらい蝉が鳴いていて夏が来たのを知った。

いつだって夏は唐突にやってくるのだ。

* * *

いくつになっても夏が嬉しいと思うのは僕だけだろうか。

3月末に会社を辞めてからずっと休みみたいなものだったはずなのに、なんとなく世間の夏休みやお盆休みのムードを嗅ぎ取って、心がはずんでいた。

福と一緒に水浴びをしようと思いたち、玄関先に子供用のプールをいそいそと組み立て、思い切り蛇口をひねって水を張ると飛沫に虹が光った。

* * *

どうにも僕は、ぱっと頭に「あ!これいいかも!!」と思いつくと、いてもたってもいられなくなる性分のようで、それは小学生の頃から変わっていない。

急な予定変更もしょっちゅうで、しかも次々に「これいいかも!」が浮かんできてしまい、ついさっき思いついたことを早々に忘れていたりするからタチが悪い。

周りにいる人たちは振り回されて、たまったものではないだろう。

* * *

出版社勤めの編集長だった頃はそんな性分もある程度許されていた(いや、実際はそれすら怪しいけれど)。

しかし、それが経営に携わる管理職となると、そうもいかなくなった。

思わずひらめいたわくわくプランをぐっと押し殺して、神妙な顔で会議室の椅子に座っていなきゃいけない時間が長かった。

それがとにかく窮屈だった。

* * *

今はようやく新しい会社の設立準備とともに、これまでやったことのない事業の準備にとりかかっている。

司法書士さんとのやりとりも、ビジネスパートナーになるスタートアップ企業とのやりとりも、大手出版社との新連載の打ち合わせも、なにかもはじめてのことばかり。

だけど、去年まで身に纏っていた窮屈な服を脱ぎ捨てて、わくわくの赴くままに「あ!これいいかも!」の実現に向けて動くのがなんとも自由でいい。

なんで今まで会社に勤めてたんだ??

むしろ自身の過去を不思議に感じるほどだ。

* * *

福を抱えてプールの水に浸す。

朝でも気温は軽く30℃を超えているから気持ちいいよね!

水浴び楽しいよね!

僕のわくわくを押し付けられて、福はちょっと迷惑そうな顔をした。

ゆっくりとやさしく全身をブラッシングすると、夏毛に変わるため毛がごっそりと抜けた。

水を両手でぱしゃぱしゃとかけながら、やさしくシャンプーする。

あれ?

水浴びする予定だったのにいつの間にかシャンプーになってるよ。

ま、それもまた自分らしいかな。

* * *

プールからあがったら、銀座の活版印刷の老舗へ新しい名刺を作りにいく予定だ。

なんでもそこで名刺をつくると出世するらしい。

これからはじまる新しい冒険を考えると、わくわくがとまらなかった。

猫も増えたし、福とふたりで過ごす時間をもっと大切にしたいと思う今日この頃

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