保護犬の福を迎えてからというもの、人間に怯える福との距離を縮めるために僕は寝室ではなくリビングに寝袋を敷いて、近くで一緒に寝るようにしていた。
そのかいあってかどうかは知らないけれど、少しずつ少しずつ福との心の距離は近づいていったように思う。
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ようやく福が僕に慣れてきた頃、今度は野良猫兄妹のとも、もえを迎え入れることになり、またしても僕は寝袋をリビングに敷いて眠る日々に逆戻りした。
その頃、福は娘と一緒にせまいベッドで押し合いへし合いしながら眠るようになり、そんな姿を恨めしく思いながら、父だっていつかは・・・という気持ちでリビングに暮らす猫たちの傍で寝袋に潜り込んでいた。
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寝袋生活を1年近く続けていたある冬の夜、うつらうつらしていると、足の上に重みを感じた。
寝袋ごしにじわりとあったかい体温が伝わってくる。
もえだった。
家の中で暮らしてはいるものの触れることもできない「家庭内野良猫」が、僕の上に乗ってくつろいでいた。
飛び起きて抱きしめたい気持ちをぐっと抑えて、ただ息を殺して動かないように注意深く過ごした。
おかげで朝には身体中の関節がぎしぎしとこわばって大変だったけど、猫の温もりは幸せだった。
それからというもの、寒い夜、もえは僕の上に乗って眠るようになった。
猫同士でなにか暗黙のルールでもあるのか、もえがいるときはともは近づいてこない。
もえが他所に行ってる時にだけ、いつも気になっているらしいともがすんすんと匂いを嗅ぎながら僕に近づいてくるのだった。
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去年、娘が家を出てからしばらくは、福は娘のいないベッドでひとり眠る日が続いた。
そして僕はというと今後は睡眠の質を高めていこうと思い立ち、寝袋生活からベッドで眠る生活にリセットすることにした。
歳も歳だしね。
大阪の「truck furniture」にとっておきのベッドも注文し、ベッドリネンもパリの「Merci」から取り寄せた。
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準備万端、快適なベッドでぐっすり眠りにつこうと思ったのも束の間、いつしか僕のベッドの上では福がど真ん中に陣取ってぐーすか眠るようになっていた。
僕はそっと福を起こさないように遠慮しながら布団をめくってすみっこに潜り込む。
すると今度は後を追うようにともともえがわらわらとベッドに乗ってきて、僕の足の間や枕元に手足をしまって座り込みすやすやと寝息を立てるのであった。
せまい。
せますぎる。
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犬や猫を起こさないように、トイレも寝返りも我慢してひっそりと眠る。
やれやれ。
でもなんだかこんな生活も悪くない。
僕は深夜にひとりにやにやするのだった。