【犬と猫と人間(僕)の徒然なる日常。】第10話:ある日、福井で″もの”思う。

【犬と猫と人間(僕)の徒然なる日常。】第10話:ある日、福井で″もの”思う。

こんにちは、ふーぽ編集部です。

福井新聞社が発行するローカルライフマガジン「月刊fu」で連載中のエッセー《犬と猫と人間(僕)の徒然なる日常。》

福井県出身の編集者、小林孝延さんが、犬1、猫2との暮らしを、のんびりと綴っています。

第10回は、実家の整理のため帰福した小林さんが、「思い」と「もの」について考えを巡らせます。

「モノ」から解放された先にある”気づき”とは。

小林孝延
こばやし・たかのぶ

編集者。福井県出身。扶桑社発行の雑誌「天然生活」「ESSE」元編集長。石田ゆり子著「ハニオ日記」(扶桑社)、「保護犬と暮らすということ」(扶桑社)などを編集。犬1、猫2と暮らす。釣り好き。新著「妻が余命宣告されたとき、僕は保護犬を飼うことにした」(風鳴舎)が好評発売中。公式Instagram

第10話:ある日、福井で”もの”思う。

この10年で福井に住む両親と妻を立て続けに亡くした。

残された僕はお墓のことや相続のこと、やらねばならぬことが山ほどあるのに見て見ぬふりをしてきた。

途中コロナ禍もあったせいで心の時計の針は止まったまま。

しかし今年、拙著「妻が余命宣告されたとき、僕は保護犬を飼うことにした」を書き上げてからその針はふたたびカチカチと動き出した。

* * *

不思議なものでひとつ動き出すとそれに押し出されるように、次々といろんな事柄が僕の意思決定を待たずとも自然と前に進み出す。

人間の心や思考は水みたいなものなのだろうか。

どんより溜まっていた池の水がゆるやかに動き出し、いつしかさらさらと澄んだ流れになる。

先日もその流れに促されるように帰福することになった。

目的は実家の整理だ。

* * *

いつものように傍に元保護犬の福を乗せ車を走らせる。

東京から600キロ、昔は休憩なんて挟まなくても苦もなくたどり着いた実家が、果てしなく遠く感じたのはやはり歳のせいだろうか。

到着予定だった時刻はとうにすぎてしまい、丸岡インターチェンジを降りる頃には日が西に傾いてしまった。

父親が几帳面だったおかげで家の中は片付いているのだがとにかくモノが多い。

箱にしまったままの器類、ゆで卵器とか靴を乾かす専用マシーンのような不思議な家電品、真贋も価値もわからぬ掛け軸、絵画、日本刀。

銀行からもらった洗剤に封も切ってない温泉の手拭い。

大正琴に弦の切れたギター。

出てくる、出てくる。

母親が漬けてそのままの梅干しはまだ食べられるのだろうか?

引き出しをひとつ開けるごとにめまいがする。

そんな僕の様子を不思議そうに福が眺めていた。

* * *

大切な思い出の詰まった品なのか、ガラクタなのか。

とかくモノを捨てるという行為は人を悩ませる。

しかし妻が亡くなった話を執筆したことで僕の中に小さな変化が起きていた。

記憶を本に閉じ込める作業は「思い」と「もの」を引き剝がすことでもあったのだ。

実際に存在する「もの」に思いが宿っているわけではない。

そこにあるのはただの物質だ。

「思い」はすでに自分の細胞に刻まれている。

その気づきが実家の片付けに向き合う背中を押してくれたのだった。

しかし…そうは言ってもね、実家は広い。

そしてモノが多い。

果たしてできるかな?

* * *

その夜、実家の居間の隅っこに布団を敷いて福とピッタリくっついて眠ると、いなくなったみんながお膳を囲んでわいわいと鍋をつついている夢を見た。

どの笑顔も懐かしくて泣けた。

犬でもないのにわんわん泣いた。

でも泣いたらちょっとすっきりした。

よし、明日はちゃんと片付けようね福ちゃん。

日本海に沈む夕陽をみようと三国の海へ向かったがあいにくの曇り。蟹を買って帰ろう

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writer : ふーぽ編集部

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