発酵デザイナー小倉ヒラクの《ほくりく発酵ツーリズム》-第4回- いしり

発酵デザイナー小倉ヒラクの《ほくりく発酵ツーリズム》-第4回- いしり

ふーぽ読者のみなさん、こんにちは。
発酵デザイナーの小倉ヒラクです。

福井新聞社が発行するローカルライフマガジン「月刊fu」で連載中の《ほくりく発酵ツーリズム》を、ふーぽでもお届けしていきます。

福井県をはじめ、石川・富山を含めた”北陸”の発酵文化を紹介します。

発酵から北陸の歴史や気候風土を読み解いていきましょう!

 

発酵デザイナー 小倉ヒラク

1983年東京都生まれ、山梨県在住。文化人類学と発酵学を独自に融合させた「発酵文化人類学」を展開し、「発酵デザイナー」の肩書で微生物研究や食文化の普及に取り組む。著書『発酵文化人類学』『日本発酵紀行』。金津創作の森美術館(福井県あわら市)で北陸の発酵食文化を紐解く展覧会「Fermentation Tourism Hokuriku ~発酵から辿る北陸、海の道」2022年9月17日(土)~12月4日(日)を開催予定。

展覧会詳細は金津創作の森美術館HPまで。

 

イカの内臓を塩漬けに

古くから日本海の要処であった石川県、能登地方の海沿いには、魚介でつくる醤油、魚醤の文化が根付いています。

なかでもパンチのある濃厚な味わいなのが、イカの内臓を塩漬けにする「いしり

関東以西ではあまりなじみのない魚醤文化ですが、実はけっこう使い勝手が良かったりするんですね。

それでは日本的魚醤の魅惑の世界にご案内しましょう。

 

▼石川県能登はこの辺り

 

第4回 石川県能登 いしり

まずは魚醤というカテゴリーの解説。

魚介を大量の塩に沈め、雑菌を排除した状態で酵素を働かせて魚介の身をドロドロに溶かし、その上澄みを搾って醤油のように使う調味料のこと。

原料も製法もシンプルなので、おそらく紀元前には普及していたもののようです。

今回紹介する「いしり」は、イカの内臓を塩漬けにして数カ月~一年以上発酵させるイカの魚醤です。

ちなみに能登ではイワシの魚醤を「いしる」と言ってイカと呼び分けることも。

魚醤の原料となるイカは、かつて家畜の飼料や肥料にするほど大量に捕れるものでした。

食べきれない量を工夫するために発酵させて調味料にしたのが能登の魚醤文化のルーツ

いしりはここ能登地方では醤油のように使うメジャーな調味料です。

熟成するいしり

 

「ふらっと」の創作いしり

読者の皆さまにぜひ知っておいていただきたい「いしり名人」は、珠洲の民宿「ふらっと

能登のオーシャンビューを望みながら地元の素材を活かした創作イタリアンのフルコースを堪能できるサイコーすぎる宿。

オーナーの船下一家はメインの調味料に使ういしりを自家製で仕込んでいるのですね。

ふらっと特性のいしりは、とりわけ生臭みがなくフルーティなうま味で、素材を活かすイタリアンにピッタリ。


女将の智香子さんパートナーのベンジャミンさんは、和食と洋食どちらの良さも熟知するシェフ

能登で揚がる魚介に野菜や山菜、あるものは新鮮な状態でいしりに和え、あるものは漬け込んでコクを出し…と地元の食材を徹底的に活かしたコースは「能登に来てよかった!」と思わせる説得力。

表面的な満足感のために肉を使わないのも潔くてポイント高い!

智香子・ベンジャミン夫妻


食事のあいだ、人懐っこい女将の智香子さんやベンジャミンさんとおしゃべりするのもコースの大事な一部。

世界を旅して、能登を愛する智香子・ベンジャミン夫妻の美意識が再発見したのが、いしりの妙味なのでした。

実に良い話ではございませんか…!



いかがでしたか。

北陸の発酵文化を訪ねる《ほくりく発酵ツーリズム》

次回もお楽しみに!

【連載】ほくりく発酵ツーリズム
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