『モーロー体』を知れば開催中の「菱田春草展」がより楽しめる!【県美学芸員のマニアックガイド】

『モーロー体』を知れば開催中の「菱田春草展」がより楽しめる!【県美学芸員のマニアックガイド】

こんにちは、福井県立美術館学芸員の美の子です。

学芸員ならではの一味違った角度で企画展を紹介する「これであなたも美術ツウ」【県美学芸員のマニアックガイド】

今回は2024年11月4日(月・祝)まで本館で開催中の企画展「生誕150年記念 菱田春草(ひしだしゅんそう)展 不朽の名作《落葉》誕生秘話」を紹介します!

今回のキーワードは「モーロ―体」

みなさんは「モーロ―体」という言葉を聞いたことはあるでしょうか?

「知らないよ」という方が多いのではないでしょうか。

漢字では「朦朧体」と書きます。意識が朦朧(もうろう)としている、の朦朧です。

今回は、この「モーロー体」を切り口として企画展の見どころをご紹介いたします。

「菱田春草展」とは

岡倉天心の薫陶を受け、横山大観の盟友として、近代日本美術を代表する作品を多数生み出した菱田春草

春草の生誕150年を記念した本展覧会では、不朽の名作「落葉」を主軸とした傑作をかつてない規模で展示しています。

重要文化財4点を含む展示作品は、どれも珠玉の名作ばかり。

春草の作品だけでなく、同時代の画家や、春草が勉強した江戸時代の“琳派”の作品で、「落葉」が生み出された背景に迫ります。

春草は「落葉」を生み出した2年後に、満36歳という若さで夭逝してしまいます。短い人生のすべてを絵画に捧げ、新しい日本画を創り出すために奔走した春草が命を燃やして描いた作品を一堂に見ることのできるまたとない機会です。

※「落葉」(永青文庫所蔵、重要文化財)は前期のみの展示です。「落葉」(福井県立美術館所蔵)は通期展示中です。

北陸新幹線福井・敦賀開業企画
「生誕150年記念 菱田春草展 不朽の名作《落葉》誕生秘話」

【開催日2024/9/15(日) 〜 2024/11/4(月・祝)
※[前期] 9月15日(日)~10月14日(月・祝)  ※10月10日(木)に一部展示替、[後期] 10月17日(木)~11月4日(月)
【時間】9:00~17:00(入館は16:30まで)
【開催地】福井県立美術館(福井県福井市文京3-16-1)
【料金】一般1,400円、高校生900円、中小生600円
【問】福井県立美術館0776-25-0452
公式ホームページ

「モーロー体」を知れば、より楽しめる!

展覧会の主役である「落葉」は、一見すると写実的に木が描かれた作品に見えます。

しかし、春草が画業の大半で取り組んでいたのは、「線を用いずに絵を描く」「モーロ―とした絵」、あまり写実的では無い作風でした。

春草の20代から30代前半に描いていた「モーロ―体」の絵画から、いかにして「落葉」に至ったのかを見ていくために、今回は「モーロ―体」を読み解いていきたいと思います。

 

時は明治時代、福井藩出身の両親のもとに生まれた岡倉天心(1863~1913)は、日本の美術を世界に知られた芸術にするべく奮闘していました。

まずは日本に残る古美術を保護し、日本美術を世界に広めることに貢献しました。

有名な著書『東洋の理想』(“The Ideals of the East-with special reference of the art of Japan”)、『日本の目覚め』(“The Awakening of Japan”)、『茶の本』(“The Book of Tea”)は、それぞれ英語で日本の文化を世界に紹介した本として、現在でも世界中で親しまれています。

 

『茶の本』“The Book of Tea”

 

そして、現役の画家たちにこれまでの絵画制作とは異なる手法を試み、新しい日本画を作るよう指導していきます。

明治以前の日本画では、墨線で輪郭を描いた後に色を塗っていくという手法が一般的でした。この日本画にとって大切な「線」を考え直すことで、これまでにない日本画を生み出すよう促します。

 

岡倉覚三(天心)肖像

 

天心の出した課題は、「線を用いず描く方法はないか」「空気を描く方法はないか」というものでした。

この教えに応えるべく、横山大観(1868~1958)や菱田春草(1874~1911)といった日本美術院の画家たちが研究し、作り出した技法の名称が「モーロ―体」です。  

しかし、実は大観や春草たちが「朦朧体」という名前をつけたわけではありません。

 

菱田春草「夕陽」明治34(1901)年 福井県立美術館所蔵

 

墨線を用いず、色線や、ぼかしを用いて絵を描く手法は現在では高く評価されていますが、当時の日本画の中では新しすぎて、中々受け入れられませんでした。

そして、「モーロ―とした絵」つまり、よくわからない絵、と批判されました。

この批判の言葉が現在では、この画期的な技法を指す名称「朦朧体」として定着しているのです。

西洋の「印象派」も実は画家たちが名乗ったわけではない名前がはじまりだったという話に少し似ていますね。

 

菱田春草「温麗・躑躅双鳩」(部分)明治34(1901)年 福井県立美術館所蔵

ここで少しだけ、「モーロ―体」の中でも代表的な「ぼかし」の作り方をご紹介します。

 

  1. まず、土台となる支持体は絹本(けんぽん)と言って、絹地を用います。
  2. ここに水で薄くした絵具を塗って、乾く前に濡れていない刷毛「空刷毛(からばけ)」で素早く擦り、色面を分散させ、ぼかしていきます。

 

白いシルクの服にコーヒーをこぼしてしまった時に、慌てて固く絞った布で叩いてシミを取った経験がないでしょうか?

何度か叩いていくと、コーヒーの色が薄くなっていく…

ちょうどその現象と同じような技法と思うと、真似できるかもしれません。

 

菱田春草「海辺朝陽」明治38-39(1905-06)年 福井県立美術館所蔵

 

日本画の画材の難しさの一つに、混色すると色が濁ってしまうという点があります。

大観や春草らも画面全体が暗い色にならない手法を考案し、「朦朧体」をより完成形に近づけていきました。

特に海外へ遊学し、鮮やかな色彩の西洋絵画を目の当たりにしたことで、色彩についてより研究を重ねていきます。

高価な金を絵具とした金泥(きんでい)など、日本画特有の画材から、時には西洋画の画材まで用いて、新しい日本画を生み出す試みを模索していったのです。

 

福井県立美術館で開催中の「菱田春草展」では春草の朦朧体の傑作を多数展示しています。

朦朧体の作品は、どれも繊細な色の移り変わりで表現されているため、画像では伝わりきらない美しさがあります。

是非本物を鑑賞できるこの機会にご覧ください。

 

北陸新幹線福井・敦賀開業企画 「生誕 150 年記念 菱田春草展 不朽の名作《落葉》誕生秘話」

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