まるで陶器! 海のミネラルから生まれた新素材「NAGORI®」と福井の漆器メーカー「セキサカ」がコラボした製品が生まれるまで。

まるで陶器! 海のミネラルから生まれた新素材「NAGORI®」と福井の漆器メーカー「セキサカ」がコラボした製品が生まれるまで。

こんにちは、ローカルライターのイシハラです。

みなさん、三井化学という会社をご存知でしょうか。

日本を代表する総合化学メーカーで、自動車、電子、医療、農業など、私たちの身の回りのさまざまなものに関わっています。

そんな三井化学のユニークな活動が「そざいの魅力ラボ MOLp®(モル、以下MOLp)」

社内の部署や社歴、役職などを問わず、有志で集ったメンバーたちが、日々素材の探求や製品開発を行っています。

2018年にMOLpが開発した素材は、これまでにないと話題になっているそう。しかも福井のメーカーとのコラボレーションも実現したのだとか!

一体、どんな素材なのでしょうか。

今回はMOLpの宮下友孝さん、近藤淳さんに詳しく伺ってきました。

海のミネラルとプラスチックを使った素材「NAGORI®(以下NAGORI)」

(左)宮下友孝さん、(右)近藤淳さん

 

──早速ですが、まずはMOLpについて教えてください。


 

宮下さん
MOLpは三井化学のオープン・ラボラトリー活動で、全国から部署を超えて常時30名ほどの社員が有志で参加しています。

月に1回お菓子を食べたりお茶を飲みながらあれこれ雑談し、そのなかで生まれたアイデアを探求したり、製品を作ったりしています。

 

近藤さん
業務とは違い、自分の興味や楽しそうだと思える部分だけ参加することができるのも特徴なんですよ。

会社の部活のような感じですね。

 

 

──楽しそうな活動ですね。ところで、今日はMOLpが開発したすごい素材のことを聞きにきました。どんな素材なんでしょうか。



宮下さん
「NAGORI®(以下NAGORI)」という海のミネラルとプラスチックを使った素材です。

プラスチックといってもさわってみてください。ちょっと違うでしょ?

 

──さわるとひんやりしていますね。しかもプラスチックと違ってずっしりしています。


 

近藤さん
そうなんです。私たちは陶器や天然石のような質感や重さを持ちつつ、プラスチックの丈夫さを兼ね備えた素材を開発したんですよ。

 

 

きっかけは「プラスチック食器は味気ない」という一言

──「NAGORI」を開発したきっかけは何だったのでしょうか。



宮下さん
NAGORIの開発がスタートしたのは2015年の秋頃です。

うちの研究者が「プラスチックの食器で食べるごはんは味気ない」と言った一言がきっかけで、どんな素材だったら美味しさを表現できるのか、MOLp内で議論したんです。

 


近藤さん
プラスチックの最大の特長といえば「軽さ」。

でも我々はそこに重さと陶器のような質感、温冷感を加えることで美味しさが表現できるのではと考えました。

 

 

海のミネラルを使うことで、環境保全にも貢献

──そこからなぜ海のミネラルを使おうと思ったのでしょうか?


 

宮下さん
MOLpではいろんなテーマについて話し合っているのですが、その一つに世界の水問題がありました。

中東やアフリカなど多くの地域で生活用水を確保するために海水の淡水化が行われています。海水はフィルターを通して真水にするのですが、その際「濃縮水」と呼ばれるミネラル成分が多く含まれた水が生まれます。

そのうち多くが海に棄てられているのですが、十分な処理がされないと実は環境に及ぼす影響が大きいということを知ったんです。

 

──海から取ったものを海に戻しているのに?


 

近藤さん
濃縮水はいわゆる苦汁(にがり)のような濃い塩水。それをそのまま海に廃棄すると局所的に海水の塩分濃度が高まってしまい、魚やサンゴの死滅に繋がる可能性があるんです。

日本ではあまり報道されていませんが、海水淡水化を進める地域では深刻な環境問題になっています。

そこで通常であれば捨てられてしまうものをもう一度資源として見直してもらいたいという想いから、海のミネラル成分を使うことを考えました。

 

宮下さん
三井化学には樹脂と異素材を混ぜ合わせる「コンパウンド」という技術があります。

その技術を使い誕生したのが「NAGORI」です。

使用している海のミネラルは実は金属成分の一種。それに樹脂を含ませることで、プラスチックと同じようにモノづくりが可能でありながら、一定の重量感を持ち、熱いものは熱く、冷たいものは冷たく感じられる新しい素材が生まれました。

 

 

──これまで棄てられるだけだった海のミネラルが使えるし、海の環境も改善されるので良いことづくしですね!


 

近藤さん
陶器のような質感をもちながらも、陶器では難しい複雑な形状を造ることも可能です。NAGORIはプラスチックの特長である割れにくさと加工性を持ちあわせているのが優れた点ですね。

加えて、海水ミネラル成分に由来する天然の抗菌性と抗ウイルス性があることも分かっています。

 

 

失敗は挑戦した証だと褒められる社風

──構想から開発まではスムーズに進んだのでしょうか。



宮下さん
海のミネラルを使うアイデアは早くから決まりましたが、そこから時間がかかりましたね。

まずはうちの若手研究員がプラスチックにどこまで異物を入れられるか実験したら、研究所の設備を思いっきり壊してしまったんです。

 

近藤さん
ところがそれを上司に報告すると怒られるどころか逆に褒められて(笑)。

 

──ええ、どういうことですか!?



近藤さん
機械を壊したのは挑戦をした証だと。実験に対する貪欲な姿勢や、トライアンドエラーできる環境もうちの社風なのでしょうね。

そこから温冷感を持たせながらプラスチックの強度も併せ持つギリギリの配合を研究して、3年の年月をかけて、NAGORIが完成しました。

 


宮下さん
素材としては珍しいのですが、2018年のグッドデザイン賞「グッド・デザイン100」を受賞しました。

NAGORIで作ったタンブラーは、多くの人に手に取っていただき、「重さや質感、熱の伝わり方に驚いた」という声をたくさんいただきました。

 

NAGORIタンブラー


近藤さん
NAGORIの面白いところは、プラスチック素材にあえて「重さ」をもたせたことです。

これまでのプラスチックはいかに軽くするか、薄くするかというところで勝負していたので、軽さを犠牲にするなんて社内で誰も考えていなかったと思います。

 


宮下さん
昔は軽い方がよかったけど、現代はもしかすると違うかもしれない。

これまでの価値観を見つめ直し、プロトタイプを作って世の中に対してコミュニケーションした今回のプロジェクトは、MOLpならではの発想だったと思います。

 

 

歴史のある産業と近代的な技術・デザインがある福井

──MOLpさんは福井との関係も深いと聞いています。どんなつながりがあるのでしょうか?



宮下さん
私は2018年に行われた福井市のプロジェクト「XSTUDIO」に参加し、そこから福井に通うようになったんです。

MOLpのメンバーを連れて福井ものづくり見学ツアーも行い、福井の企業を回りました。

 

福井を訪れたMOLpメンバー 詳しい記事はこちら


──そうなんですね。今回福井のメーカーと一緒に作ったという製品についても詳しく教えてください!



宮下さん
鯖江市の漆器メーカー「セキサカ」とNAGORIを使ったトレイ「SEKISAKA×NAGORI® PLACE」を発表しました。

福井で出会った一人、「セキサカ」のデザイナーの関坂達弘さんとのデザインに関する考え方と我々との相性の良さを感じたことがきっかけです。

セキサカ自体も業務用漆器を数多く手がけていて、プラスチック素材に対する知見を多くお持ちだったことから今回のコラボレーションが実現しました。


──表面が石みたいできれいですね。でもなぜトレイだったのでしょう?



近藤さん
関坂さんとはいくつかプロダクトを試作したのですが、シボ感があってトレイが最もNAGORIの特長を活かせると思いました。

製作する中で気づいたのは、「重いトレイって使いやすいな」ということ。給食トレイのように重ねて大量に持ち運ぶ際はもちろん軽さも大事なのですが、軽いトレイは配膳時に不安定になったり、ちょっとした衝撃でひっくりかえってしまったり使いづらいことも多いことに気づいたんです。

また、1つ1つ色柄が異なるマーブル調の加飾表現を用いており、ちょっとした傷や汚れも味となって少しでも長く大事に使ってもらえるような製品を目指しました。

 


宮下さん
このトレイは一番大きなもので800g近くあります。そんな重いトレイは今まで作る人がいなかったと思うのですが、持ってみると意外と安定するんです。

実際に大手自動車メーカーのイベントなどで使っていただいたり、色々な機会でユーザーの声を集めているのですが、給仕を担当した人からも「運びやすい」と仰っていただきました。

 

──今回、福井の企業とコラボレーションしていかがでしたか?



近藤さん
福井は伝統工芸や伝統産業など歴史あるものづくりが数多く残っています。そして、多くの技術力の高い企業が日本の近代的なものづくりを支えています。

我々も素材メーカーとして福井の企業と協業していくことで、互いの技術力を活かした新しいものづくりができると感じました。

 

宮下さん
あとは、知り合いづてで答えが見つかる可能性が高いのも福井の魅力!

「こういうことをやりたい」と言うと、その人はわからなくてもすぐ人を紹介してくれるんですよね。このネットワークは都市部にはない魅力だと感じています。

 

 

まだまだ広がるNAGORIの可能性

──今後のNAGORIの展開を教えてください。


 

近藤さん
今回製作したトレイは、3月末までサンフランシスコ発の体験型店舗「b8ta(ベータ)」に出品し、多くの方に手に取っていただきました。

さらに、3月10日にグランドオープンした「東京ミッドタウン八重洲」内のシェアオフィス「ワークスタイリング東京ミッドタウン八重洲」でも試験採用がスタートしました。

アウトドアや医療などさまざまな分野からの問い合わせもあり、広がりを期待しています。今後もさまざまなユーザーからのフィードバックを得ながら開発を進めていく予定です。

 

「b8ta Tokyo – Yurakucho」でのトレイ展示の様子

 

──また新しいコラボレーションも考えているんでしょうか。



宮下さん
最近では三井不動産さんと「ワークスタイリング東京ミッドタウン八重洲」で使用されるマグカップの開発を発表しました。その他にも、食器や家電、文具、化粧品、自動車内装材などさまざまな分野から問い合わせが増えています。

今後もNAGORIを実際に使っていただいて、その価値が伝わるような展開を考えていきたいですね。我々の思いに共感していただくパートナーを探しながら、この素材を使ったプロダクトを開発し、より多くの方にそざいの魅力を発信していけたらと思っています。

 

NAGORIのトレイやマグカップに出会える「ワークスタイリング東京ミッドタウン八重洲」のカフェスペース

《NAGORI 販売場所》
◆ataW

福井県鯖江市莇生田町17-1 1階
090-7410-0009
https://ata-w.jp/

◆MOLp(公式サイト オンライン販売のみ)
https://molpec.com/

《NAGORI 展示/試験採用場所》
◆b8ta
https://b8ta.jp/

◆ワークスタイリング 東京ミッドタウン八重洲
東京都中央区八重洲2-2-1 東京ミッドタウン八重洲 八重洲セントラルタワー 7F
https://mf.workstyling.jp/share/office/midtownyaesu/

※掲載内容に誤りや修正などがありましたら、こちらからご連絡いただけると幸いです。

※本記事の情報は取材時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。最新情報はお電話等で直接取材先へご確認ください。

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writer : ふーぽ編集部

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