【犬と猫と人間(僕)の徒然なる日常。】第9話:愛しいあしおと。

【犬と猫と人間(僕)の徒然なる日常。】第9話:愛しいあしおと。

こんにちは、ふーぽ編集部です。

福井新聞社が発行するローカルライフマガジン「月刊fu」で連載中のエッセー《犬と猫と人間(僕)の徒然なる日常。》

福井県出身の編集者、小林孝延さんが、犬1、猫2との暮らしを、のんびりと綴っています。

第9回は、読めば心がきゅんとなる、小林家の″姉妹”のお話です。

小林孝延
こばやし・たかのぶ

編集者。福井県出身。扶桑社発行の雑誌「天然生活」「ESSE」元編集長。石田ゆり子著「ハニオ日記」(扶桑社)、「保護犬と暮らすということ」(扶桑社)などを編集。犬1、猫2と暮らす。釣り好き。新著「妻が余命宣告されたとき、僕は保護犬を飼うことにした」(風鳴舎)が好評発売中。公式Instagram

 

第9話:愛しいあしおと。

3カ月ぶりに娘がうちに帰ってきた。

帰省の前、我が家の元保護犬・福はまるでそれがわかっているかのようにそわそわして見える。

いやじつはそわそわしているのは僕の方で、いつもと少し違う空気を醸し出しているのを持ち前の野生が敏感に感じ取っているのかもしれない。

でも、どうぶつの能力というのはほんとうにすごいもので、福は僕が仕事から帰る時、最寄りの駅に着いた時分には玄関ドアの前でおすわりをしているのが留守電カメラで確認できるし、ともともえはエントランスの鉄のゲートを開けた音ひとつで、それが家族によるものなのか、宅配便の人なのかを瞬時に聞き分ける。

もちろん後者の場合は一目散に逃げていく。

人見知りこのうえない。


*  *  *


その日も娘からLINEに届いた帰宅時間の頃にはすでに福は玄関でスタンバイしていた。

甘えた声で鼻をならして、地団駄を踏むように足をパタつかせるとすぐにゲートを開ける音が聞こえた。

いったい娘がどのあたりに来た時から気配を感じているのだろうか。

もう待ちきれないとちぎれんばかりに尻尾を振り、くるくると回転する。

「おかえり、おかえり、どこにいってたの? さみしかったよ!」

言葉を持たない福は体全体のエネルギーをふりしぼってその気持ちを伝えようとしているのだろう。

玄関ドアが開き娘が目の前に現れると何度も何度も繰り返し立ち上がって前足で娘の体に抱きつこうとしては離れ、また抱きつこうとしては離れる。

一点の曇りもない純粋な愛のエネルギーは人の心を貫く。

もしかしたらわれわれは言葉に頼りすぎているのかもしれない。

そんな気持ちにさえなってくるのだった。


*  *  *


友達の結婚式に出席するにために帰省した娘はそのまっすぐな愛を受け取りながらも、またすぐにそれを振り切って出かけなければならない状況に心がちくりと痛んだそうだ。

福がわが家にやって来た初めての夜、怖くて部屋の片隅でびくびくと震えていたくせに、なぜか娘にだけは心を許し、深夜にそっと娘の足の間に小さな体をこじいれて眠りについた。

当時女子高生だった娘にぴったりと寄り添って眠るその姿を見て、亡き妻が

「つむぎに姉妹のような存在ができて本当によかった。これで安心だわ。あの子はあれで案外難しいところがあるから、私になにかあっても、きっと心を支えてくれるはずね」

としみじみと呟いたことをふと思い出した。


*  *  *


4月以降、夜になっても帰ってくるはずのない娘をひとりベッドで待ち続けていた福にとってこの瞬間がどれほどうれしいことか。

今夜、社会人になった娘の足の間にからだをこじいれて眠る福の姿を想像すると、自然と笑みがこぼれるのであった。


散歩もお出かけも嫌いな臆病者の福だけど娘が一緒なら少しだけ勇気が湧くらしい

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※本記事の情報は取材時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。最新情報はお電話等で直接取材先へご確認ください。

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