知恵と工夫とおいしさを暮らしの中で受け継いで。
「お正月やお祝いごとがあると、皆で集まって食べていました。なじみ深い料理ばかりです」。
そう話してくれたのは、今回料理を教えてくれた勝山市の「福井ふるさと茶屋縄文の里」の太田紀子さん。
母親の見よう見まねで覚えた里芋のころ煮、嫁いできてから地域の先輩方に教わった四色の昆布巻き、「色鮮やかに仕上げるのに、今でもレシピとにらめっこ」と笑うすこなど、正月にぴったりの郷土料理がテーブルを彩りました。
「母は里芋を煮る時に、味が染みこむように十文字に切り込みを入れていたの。家ごとにちょっとずつ作り方が違って、私はこうするのよって皆でお喋りするのも楽しい。基本を踏まえつつ、自分なりの味を出していったらいいと思う」とおおらかです。
ほかに「お正月に食べ頃となるように、1カ月前から仕込む」と言うのは、冬の寒さを利用して発酵させる「なれずし」。
冬場の貴重なたんぱく源であり、正月のごちそうとして親しまれてきました。
「たくさん漬けて保存しておけば、いつでも手軽に栄養を摂れる。雪国ならではの先人の暮らしの知恵よね」と太田さん。
郷土料理は日常の家庭料理でありながら、冠婚葬祭や、豊作豊漁を祈る祭礼に伴うものが多くあります。
「お正月は多くの人が集う機会でもあったし、昔は自宅で結婚式や葬式をしていましたから。親戚や地域の人が助け合って準備をするなかで、料理も伝わっていました」。
その繋がりが薄くなった今、郷土料理を味わうことで、行事の意味や地域の絆を知ってもらいたいと話します。
太田さんは1年前から勝山市の女性5名のグループ「福井食の魅力まるっと伝え隊」のメンバーとしても活動中。
「難しいイメージで、敬遠されがちな郷土料理を少しでも身近に思ってもらえるように、皆で頑張っているところです」。
活動のひとつである料理教室では、郷土料理が生まれた地域の食文化や人々の暮らしなども解説しています。
「私もこの年になって、おいしいと気づく料理があるのよ。今の若い人たちにもそう感じてもらえたら」。
そんな自然体な言葉にほっとします。
人から人へ、知恵と味を伝えていく。
郷土料理の奥には、いつの時代も変わらない、優しいまなざしがあります。
〈撮影協力・レシピ監修〉福井ふるさと茶屋 縄文の里
地域のお母さんたちが手作りするランチが味わえる(勝山市遅羽町比島33-1)