【ふーぽコラム 1人目】旅の文筆家・蜂谷あす美②

【ふーぽコラム 1人目】旅の文筆家・蜂谷あす美②

福井にゆかりがあったりなかったりする、いろいろな書き手がよしなしごとを書き綴る「ふーぽコラム」。

今回は、旅の文筆家・蜂谷あす美さんの2回目です。

 

【⇒蜂谷あす美さんコラム①はこちら】

【⇒蜂谷あす美さんコラム③はこちら】

【⇒祝☆蜂谷さんの初著書が出版されました!】


 

離れたのか。遠ざかったのか。


「地方出身者の視点で」と依頼され、首都圏にまつわる原稿を書く機会がある。上京して10年たったのに。

そんな原稿を徹夜で書き上げ編集者に送り付け、夜明けのコーヒーののち品川駅へと向かった。5月3日のこと。
6時ちょうどに発車する東海道新幹線「のぞみ」に乗り、名古屋始発の「ひかり」に移り、米原始発の特急「しらさぎ」に落ち着いた。

ひかりでは行楽客のおしゃべりが目立っていたのに対し、しらさぎの車内はやたら静かで、車窓は腫れぼったかった。帰ってきたことを実感する。

いくつものトンネルを抜け、大土呂駅右手に母校「北陸自動車学校」を認め、足羽川を越えると列車は福井駅に至る。
品川から福井までは3時間半弱。新幹線と特急を駆使すれば、案外近い。

ホームから改札へ続く階段を降りたところで、わざとらしく手を振ってくる両親が見えた。

「あれ、いつもそんなんやったっけ」

頭にハテナを浮かべつつ出札したところで理由が判明した。
この日は帰省ラッシュのピーク。テレビ局が、じいちゃんばあちゃんと孫の再会シーンを撮影しようと構えていたのだ。
父よ、母よ、残念ながら私は孫ではないし、独身独居の身分だからインタビューされないよ。

しかしそのうち某局が、娘ポジションにあたる私にカメラを向けてきた。

「帰省の目的は」
「何をする予定ですか」
「どんな風にして過ごしますか」

生家に帰るだけなのに、大義名分が必要なのか。そんなもん、なんもない。家路で思うことなんて「今日のご飯なんやろ」くらいだろう。

首都圏ではいつまでたっても「地方出身の蜂谷さん」な一方で、地元では「福井にゆかりのある蜂谷さん」と化しつつある。
福井が離れたのか、私が遠ざかったのか、一抹の寂しさを感じる。
純粋無垢な「おかえり」を期待するのは、出て行った者のエゴなのだろうか。

学生時代に重ねた帰省は、品川から福井まで、鈍行列車でおよそ12時間。東海道本線はだらだら続くし、ようやくの北陸本線は敦賀で乗換を余儀なくされる。長く険しく、お尻は痛い。修行かよ。けれども心の距離は、こちらのほうがしっくりとくる。

なお、インタビューは採用されなかった。昼のニュースも夜のニュースも録画して見たのに。

ひところ夢中になって使った帰省のきっぷ

米原駅。新幹線との乗り換えはいつも混雑する。ほぼ北陸関係者

子どもの頃より憧れていたサンダーバード号も、いつまでも最新鋭ではいられない

鈍行列車コースでの帰省のとき、敦賀から福井にかけてお世話になった419系は、すでに引退している

   



蜂谷あす美

1988年福井市出身。2015年JR全線完乗。「鉄道ジャーナル」連載ほか、旅と鉄道と牛乳を中心に活躍中。

※掲載内容に誤りや修正などがありましたら、こちらからご連絡いただけると幸いです。

※本記事の情報は取材時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。最新情報はお電話等で直接取材先へご確認ください。

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writer : ふーぽ コラム

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