「誰かの『お月様』であること」大安禅寺・副住職 高橋玄峰さん【ふーぽコラム】

    「誰かの『お月様』であること」大安禅寺・副住職 高橋玄峰さん【ふーぽコラム】

    福井にゆかりがあったりなかったりする、いろいろな書き手がよしなしごとを書き綴る「ふーぽコラム」のコーナー。

     

    今回は、福井県福井市にある大安禅寺・副住職 高橋玄峰さん(たかはしげんぽう)です。


      大安禅寺・副住職

      高橋 玄峰(たかはし・げんぽう)
      1982年、福井市生まれ。
      臨済宗大本山妙心寺本派専門道場で修行後、2010年5月に大安禅寺副住職に就任。
      法話や坐禅を通し、青年育成や地域活性に向けた布教活動を行う。

       

       

      雨は雨、晴れは晴れでしかない。

      「うちわたす 野山の広さ ゆく水の 長さ目にあく 時なかるべし」

       

      橘曙覧(たちばな・あけみ)が詠うように、そんな風光明媚な場所に在る大安禅寺は、福井藩松平家の永代菩提所として江戸初期に建立された臨済宗妙心寺派の禅寺です。

       

      今回、当コーナーを任せて頂いたのも何かのご縁だと思いますので、禅の旨味を皆様の生活にひと味加えるエッセンスとしてお届けできれば幸いです。

      そこで今回は「ご縁」のお話を。


      私達は様々なご縁と結びつきながら暮らしていますが、それらをどうしても「幸」「不幸」のご縁として分けてしまいます。

      例えば天気に置き換えてみましょう。天気は日々移り変わりゆくものなので、故に天気予報を頼りにします。

      明日は晴れを望んだ時、予報が晴れだと安心します。

       

      人生そんなに甘くはなく、予報がハズレて翌日はどしゃぶりの雨。裏切られたという思いから「生憎の雨」「残念な雨」として、それを不幸のご縁と受け取ります。

      ところが立場が変わり、雨を望んだ方からすれば、予報がハズレたことで逆に「恵みの雨」となり、順縁であり幸せのご縁になります。

       

      しかし、そもそも嫌がらせをしようと降る雨も無く、喜ばせようと降る雨もありません。

      雨は雨でしかないのです。

       

      ご縁も同じように幸や不幸という属性をあてがわれているわけではありません。

      あるご縁を、幸や不幸という個々のものさし、価値判断で比較するところに不安不満が生じてしまうのです。


      歌人の俵万智さんに面白い歌があります。

      「天気予報聞きのがしたる一日は雨でも晴れでも腹が立たない」。

      思わず笑い、納得させられました。

       

      私達は普段、勝手な自分の都合という色眼鏡を通して世のなかを見ているだけです。

      ならばその色眼鏡を外して、あなた本来の目でご縁と向き合えば、日の過ごし方は何通りもの答えを持つことになります。

       

      人生は受け入れがたいご縁と向き合うことも多いですが、その不幸や不満を幸せや安心に昇華させられるのもまた、他でもない私自身だということを忘れてはいけません。

      自分だけの価値判断に沿ったご縁のみを求めること。それが時に不幸を招いてしまう振る舞いかもしれませんね。

       

      さて今日の天気は、あなたにとって? 

       

       

      視点と支点をずらしてみては。

      夏から秋へ移る9月は、ひと雨ごとに暑さが和らぐ好時節。

      朝夕に吹く風が心地よく、その中での坐禅は、私にとって楽しみの一つです。

       

      いっぱいに風を感じるだけで、心は柔軟になるものです。

      禅のいう「心」は、いつだって空を自由に行く雲のように、川を滔滔(とうとう)と流れる水のように。

      ひとつのところにとどまらない、自在な心を活かすことを大切にします。

       

      現状のようなコロナ禍にあると、人の心は知らずうちに凝り固まるものだと、自分自身実感しています。

      言うまでもなく、ウイルスによって私たちの社会と生活は一変しました。

       

      ですが、いつの時代も不遇なことは起こり、それらを経てこそ人は輝きを増します。あたかも楓の葉が冷たい霜をまとって燃えるような赤に色づくように。

       

      苦しいことを経験してこそ人生は豊かになる。

      悲しいことがあれば、楽しいことを望むという「プラスマイナスゼロ」の人生ではなく、悲喜交々ひっくるめて「わたしの人生」と受け止めていくことこそ人生を魅力的にするのではないでしょうか。

       

      そのためには、心を柔軟に一つのところにとどめない視点が大切です。

       

      例えば、「こころの天秤」を思い浮かべてください。

       

      苦しみという重量を一方にかければ、天秤は傾きます。それを悩んでいる状態だととらえ、解決しようとするならば、もう一方に同じだけの幸せという重りを載せ、つり合わせて水平に戻せば良いと考えます。

       

      しかし別の方法もあります。禅の観点でいえば、心という支点を、傾いた方(苦しみ)にずらすことで天秤は水平に戻せます。

      悩みの根源は重さではなく、常に自分自身の中にあるのです。悩みから逃げず、向き合った分だけ見えてくる"私の生き方"が必ずあります。

       

      詩人、八木重吉は「こころ」と題してこう綴りました。

       

      「こころよ では いっておいで

      しかしまた もどっておいでね 

      やっぱり ここがいいのだに

      こころよ では 行っておいで」

       

      あなたの"こころ"はいつだって自由自在です。

      少し息が詰まったら、ゆっくり深呼吸して、心の支点(視点)を動かしてみましょう。

       

      きっと世界が変わりますよ。

       

       

      誰かの「お月様」であること。

      「名月や 池を巡りて 夜もすがら」

       

      中秋の名月を眺めながら池の周りを歩いていたらいつの間にか夜が明けていた。

      それほど芭蕉の眺めたお月様は美しかったのでしょう。それとも、時を忘れ見惚れ続けられる芭蕉本人の遊戯三昧の心境を賞賛するべきでしょうか?

       

      いずれにしてもストレス社会と揶揄される世の喧騒に追われ、「忙しい」と心を亡くしている私たちには、学ぶべきことが多い俳句です。

       

      禅の教えでは、しばしば自然と一つになって、その在り方から人の生き方を読み取ることを大切にします。

      ただそこにあって闇夜を照らし続ける月の明かりは、どんな人にも届き優しく包み込みます。

      決して自らの輝きに驕ることなく、月は月としてそこに在り続けているだけです。

       

      人にも、こうしたお月様のような感覚を抱かせる方がいます。

       

      「あなたがそこに ただいるだけで
      その場の空気が あかるくなる 

      あなたがそこに ただいるだけで
      みんなのこころが やすらぐ 

      そんなあなたに わたしもなりたい」

       

      相田みつをさんの詩にあるような、そんな人は確かにおられます。

       

      どんな地位にあろうと偉ぶることなく、存在感がありつつも威圧感などは微塵もなく、いるだけで周囲の人がホッと安心できる。

      そして、誰もがそんなお月様のように優しく輝ければどれほどに幸せなことでしょう。

       

      私自身もそのような僧侶を目指していますが、道は遠く、むしろ己への執着が強すぎて至らぬ点が目立つばかりです。

      ですが、心掛けていくことを諦めてはいけません。

      自分の為すことに驕らず、今日の務めを一所懸命に果たすことが小さな一歩となり、それがいずれ大きな歩みにつながると信じています。

       

      複雑な現代社会にあって、私たちはさまざまな問題と日々向き合います。

      私のお寺に寄せられる相談も不安やストレスに関するものが多いように感じます。

      ただ、私たちはどうしても自分の「安心」ばかりを求めがちになりますが、誰かの「安心できる人」になることを心掛けていただくことは、自身の心をも穏やかにしてくれると私は思います。

       

      誰かの「お月様」であること、それは人生を豊かに生きる一つの道なのです。

       

      ※掲載内容に誤りや修正などがありましたら、こちらからご連絡いただけると幸いです。

      ※本記事の情報は取材時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。最新情報はお電話等で直接取材先へご確認ください。

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