猫は猫でも魚の猫の話。
 え? なに魚の猫??
 英語にするとキャットフィッシュ。
 つまりナマズである。
 昨年末、僕は長年の夢であった南米ガイアナの奥地に広がるジャングルへ巨大ナマズを釣るために旅をした。
 この話をすると大抵「は??」という反応をされる。
 けど、僕が長年勤めていた出版社を辞めて独立したその瞬間から「絶対にやるべきことリスト」の第一位に掲げていた夢だった。
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 小学生の頃、この世に家庭用テレビゲームなるものが登場した。
 クラスメートが早速手に入れ、僕はその様子を指をくわえて眺めていた。
 テレビコマーシャルが流れるたび、欲しくてたまらない気持ちが募る。
 あまりにも欲しくてもう限界!!
 と、父親に相談すると、なんとテレビゲームの代わりに釣り竿とリールを買ってくれた(どんな代替案やの?)。
 父親からしたら、高価なおもちゃは無理でも、釣りなら安上がりで楽しめるという算段だったのだろう。
 ところがこれが運命の分岐点だった。
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 小林少年はその釣り竿を持って初めて出かけた北潟湖でいきなり1メートルを超える巨大な鯉と対面、そこからどっぷりと釣りの沼にはまってしまうことになった。
 森田ショッピングセンターの本屋で買った釣りの本を貪るように読んで、毎日、自転車に乗って竹田川へ向かった。
 中学生になり、テストで早く帰れる日は近所の十郷用水で釣りをした。
 高校生の時は学校をサボって田島川の護岸で寝転んでいた。
 結局、就職活動もせず釣りばかりしてた僕をアウトドア雑誌の編集部が拾ってくれて、編集者になって、釣り雑誌まで創刊して、紆余曲折あり今に至る。
 父さんごめんね、高くついたね?(笑)。
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 そんな僕が夢見た人喰い巨大ナマズと対面するためには最低でも2週間以上の自由な時間が必要だった。
 たかがその程度の休みすら、勤め人をしていてはままならないのが日本の現実。
 だからようやく独立して実現した旅だった。
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 熱帯の川に浮かぶボートの上からアマゾンの景色を眺める。
 空につがいの色鮮やかなインコが飛び、オオカワウソが船縁まで威嚇しにやってきて、木々の間をクモザルが飛び移る。
 その様子を見ながら、胸の奥底からじわじわと湧き上がってくるのは、ことばにしがたい感情だった。
 「ああ、僕はこの景色に会いたかったんだなあ」
 そう思うと同時にこれまでの人生が思い返された。
 そして気づくんだよね、これからの人生、残された時間が少ないのだと。
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 幸せってなんだろうね。
 その答えはわからない。
 でも大事なのは、その問いを抱きながら生きる時間を持つことかもしれない。
 何かを探して、心がかすかに感じたことを見逃さないように生きること、きっとそれが人生という旅なのかもしれないな。