中野編集長 ざっと挙げると、「NARUTO-ナルト-」「べるぜバブ」「いちご100%」「トリコ」「BLEACH(ブリーチ)」などなど。後に「暗殺教室」を描く松井優征先生の「魔人探偵 脳噛ネウロ」は初代担当でした。
中野編集長 いや、そういう特別ボーナスはまったくないんです(笑)。だけど、そうやって担当している漫画家の作品がヒットして、漫画家がお金持ちになっていく姿を見ると、すごくうれしいしホッとしますね。編集者にとっては新人作家を育てるのも大事な仕事で、才能のある若手を何年もかけて一人前にしていく。その努力が報われますね。
中野編集長 編集者は、駆け出しの漫画家のまったくお金がない貧乏な姿を全部見ていて、そこから一緒に苦労していくんです。だから大ヒット漫画家になっても、初代の担当編集者にはなかなか頭が上がらないようです。かつて一緒に苦労して頑張った思い出があるから、大御所になった後に新連載を頼みに行った時に、「〇〇さんのためなら描くよ」って言って決めてくれたり。
中野編集長 編集者は、1人でだいたい100人近くの漫画家と連絡をとっていますね。初めて持ち込みした若手から、何年も連載目指して頑張っている人や、連載が終わって次の作品を準備している人などさまざま。そうした漫画家たちに対して、常に作品の進行具合を気にしたり、連載を目指して一緒に作戦を練ったりしています。
中野編集長 そうですね。編集者はみんな、面白い漫画家を自分が発掘して、世に出したいって思っていますよ。基本的には、持ち込みの電話を受けた編集者がその相手を担当することになるので、電話は取り合いになりますね。また、せっかく才能があるのになかなか描かないような人にはしょっちゅう電話をかけてハッパをかけます。「おまえ何やってんの? 馬鹿じゃないの? 本気で描く気あるの?」なんてあおったり。あとは、打ち合わせをかねて、ファミレスでご飯をごちそうしてあげたりして、様子を常に気にかけてますね。
中野編集長 やっぱり、お互い人生をかけて漫画と向き合っているからですね。作品をよくするために、時には嫌なことや厳しいことを言う必要もあります。もっとつらいのは、これ以上伸びしろがない漫画家に対して、「もう無理だよ」と言って、時には引導を渡さないといけないこともある。漫画業界って本当にシビアな世界で、いくらやる気があっても夢があっても、読者に認められるか、面白いか面白くないか、商業的に成功するかがすべて。ダラダラと時間だけ浪費していっても、その漫画家の今後の人生のためには、いつまでも夢ばかり見させていてもダメなんです。もう無理だと分かったら、正直に伝えることが大事だと思います。
中野編集長 自分が面白いと思って一緒に作っている作品の人気が出るとやっぱりうれしいですよ。漫画がヒットすると、歴史に残るような作品に関わっているという誇らしさがあります。また僕自身としては、圧倒的な才能を持つ人間と関われること自体に、ほかには替えられない満足感がありますね。
中野編集長 先ほど挙げた「BLEACH(ブリーチ)」に関しては、初代担当ではないのですが、5巻から24巻あたりまで担当しました。 その間に、舞台化、アニメ化、そして映画化と広がっていった。そんなメディアミックス的な展開の部分ですごくいろんな経験ができて勉強になりましたね。 何よりも、人気がどんどん出ると、担当編集者として気分がいい。 ジャンプ編集部内には「ヒット作を作らずんば人にあらず」という文化があって、ヒット作さえ出せるとデカい顔ができますから(笑)。
中野編集長 うーん。こればっかりは本当に運ですね。世の中に何がヒットするかは、いくら経験を積んでもわからない。ただ、ヒット作を生み出すために努力することは大事ですね。そもそも数に勝るものはないので、例えば、持ち込みから有望そうな新人をどんどん発掘してとにかく描かせる。いろいろな漫画賞の受賞者にひたすら電話して才能をひろいあげるとか。