【ふーぽコラム 1人目】旅の文筆家・蜂谷あす美① 

【ふーぽコラム 1人目】旅の文筆家・蜂谷あす美① 

福井にゆかりがあったりなかったりする、いろいろな書き手がよしなしごとを書き綴る「ふーぽコラム」。

今回は、旅の文筆家・蜂谷あす美さんの1回目です。

 

\2019年7月に蜂谷さんの発書籍が出版されました!/

女性のための鉄道旅行入門! 福井市出身「旅の文筆家」蜂谷あす美さんの初の著書が出たよ【ちょいネタ】

【⇒蜂谷あす美さんコラム②はこちら】

【⇒蜂谷あす美さんコラム③はこちら】

 

独り旅の一期一会


独り旅の夜は居酒屋(年季入ってそうなやつ)で過ごすことが多い。「よそから来たお客さん向け」の有名店よりも、地元の人が普段使いしている店のほうがよほど気になるからだ。

ところが残念なことに私はお酒がまるで飲めない。カウンターに案内されるまでは及第点なのに、あとが続かない。これでは全然格好がつかないだろう。

ならばどうするかというと、飲み物のメニューを眺めて「どうしよっかな~」と呟き、翌日に支障をきたすのを避けるためといった雰囲気を醸し出し、苦渋の決断として「ウーロン茶」を選んだことにしていた。
飲めない己を恥じる自意識があった頃は。


今は違う。
経験を積むほどにふてぶてしくなるもので、前記「苦渋の決断」までの過程を省略し「ウーロン茶」と言えるようになった。大将から「車で来たの」と尋ねられても、「下戸です」とためらわず答えられる。

そしてしばしばこのやり取りが導入となり、「どこから来たの」「神奈川です」「何しにきたの」「旅行です」に代表される一問一答の応酬、常連さんも交えてのおしゃべりに発展する。


熊野速玉大社で知られる和歌山県の新宮市に泊まったときのこと。
丘サーファーよろしく「飲めないのに居酒屋」を謳歌し、例によって盛り上がっていたところ、常連さんが「新宮を案内しようか」とご提案くださった。

翌日の私はというと、その常連さんに熊野川や神倉神社といった名所旧跡をアッシーしてもらい、「帰りの列車でどうぞ」と名物「めはり寿司」をちゃっかりいただいてお別れした。


居酒屋ではないが、青森県のむつ市には年に1度のペースで訪れる喫茶店がある。
夜ご飯を食べに行った際、マスターから「トヨタ、日産、ホンダ、どれが好き?」と聞かれた。
「え、日産でしょうか」と答えたところ、居合わせた常連3人衆のうち、日産車保有者が宿までの送迎係となってくださった。

むつ市には海上自衛隊の地方隊がある。日産車の方もそこの所属であり、わずかな道中で海自における日々の業務を教えていただいた。


友達を作るために旅しているわけではない。
出会う人たちとは、求められない限り名刺交換をすることも名乗り合うこともなく、そこでさよならだ(たまに友達もできるが)。

「つながり」を大事にするご時世だけど、こんな一期一会があるから旅は楽しくて、私はやめられないでいるのだと思う。

和歌山県の南部、紀勢本線を走るキハ25

青森県むつ市、恐山にある宇曽利湖。透明度は高いが強酸性のため、魚は「ウグイ」しか棲めない

下北駅発恐山行きの下北交通バス。途中、恐山冷水という水が湧いている場所で休憩をとる

下北半島を走る大湊線。冬は豪雪地帯だ



蜂谷あす美

1988年福井市出身。2015年JR全線完乗。「鉄道ジャーナル」連載ほか、旅と鉄道と牛乳を中心に活躍中。

※掲載内容に誤りや修正などがありましたら、こちらからご連絡いただけると幸いです。

※本記事の情報は取材時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。最新情報はお電話等で直接取材先へご確認ください。

ふーぽ コラム
writer : ふーぽ コラム

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