先日、テレビで5年前に僕たち家族を取材していただいた番組が放映された。
当時の密着映像に、今回あらたに取材された内容が加わった特別版だ。
まだ妻が亡くなってから日も浅く、子どもたちと同じ屋根の下で暮らしていた頃の僕たちの姿が映っていて、思わず当時の記憶が蘇った。
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今はネットメディア全盛の時代だけど、やっぱり地上波は反響が段違いだ。
放送後、友人知人はもちろん、SNS経由で知ってくださった方や、これまで一度も会ったことのない方まで、驚くほどたくさんのメッセージが届いた。
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自分で言うのもどうかと思うが、僕たち家族と保護犬・福の物語を再現したドラマは、当時の空気をそのまま写し取ったようなリアルさで、ドキュメンタリーに近い説得力があった。
何度もわが家に足を運んでくれた制作チームの丁寧な仕事ぶりが画面から伝わってきた。
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ふり返ってみれば、著書の中ではあの時期のことを書いているが、この連載では触れる機会がなかったように思う。
あまり過去の話に寄りかかると、自分が前へ進めていないようにも感じられるし、なにより心の整理が十分ついていなかった。
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テレビ取材を受けたのは、妻が亡くなってちょうど一年が経つ頃だった。
家族それぞれが悲しみの渦の中にいて、日常をなんとか回している、そんなぎりぎりの時期。
言葉にすれば簡単だが、その一年は長く重かった。
そんな僕たちをずっと見守ってくれていたのが保護犬の福だった。
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福を家に迎えたのは2016年の暮れ。
妻の症状が深刻になり、家族の会話も減っていた頃だ。
どうにかこの停滞を動かしたいと願い、誰にも相談せず、僕は保護シェルターから一匹の雑種犬を連れて帰った。
その犬は野犬で、間もなく殺処分の対象になるところだった。
シェルターには仔犬もたくさんいて、可愛い子から順番に引き取り手が決まっていく。
そんな中で福は、ひときわ大きく、被毛はごわごわで、顔はしわだらけ。
誰の目にも留まらず、貰い手がいなかった。
でも、僕は抱き上げたとき「この子しかいない」と感じた。
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こうして迎え入れた一匹の保護犬は、家族のバラバラになりかけた心をもう一度つないでくれる存在となった。
そして「今を生きる」大切さを教えてくれた。
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それからの時間は、僕たち家族にとって大切な「ギフト」だ。
笑って、旅をして、キャンプに出かけて四季の匂いの中を福と一緒に歩いた。
あの時につくった幸せな記憶は、いまでも僕の背中を押し続けてくれる大事なガソリンだ。
あの頃に受け取った大きな贈り物を誰かにおすそ分けするような気持ちで、今僕は文章を書いている。
読んでくれた人の今日が、ほんのわずかでもあたたかくなるように。