子どもたちに引き継ぐ“一滴”の思い。【生活芸人・田中佑典のふくい微事記~おおい町編~】

子どもたちに引き継ぐ“一滴”の思い。【生活芸人・田中佑典のふくい微事記~おおい町編~】

こんにちは、生活芸人の田中佑典です。

 

往復約900km。福井県を徒歩で横断する「微遍路(びへんろ)を終え、歩んだ道のりをもとに「微住街道」をマッピング。

街道の途中で出合った出来事を「微事記」として記し紹介します。

今回は【おおい町編】です。

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田中 佑典
さん

台湾と日本をつなぐプロデューサー。
一定期間地域に滞在し、“ゆるさと”づくりをする旅『微住』の提唱人。
2021年東京から福井市にUターン。
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子どもたちに引き継ぐ“一滴”の思い。

40年ほど前、おおい町は財政が厳しく、子どもたちに本を提供する場を設立する余裕がなかった。

しかし「子どもたちに本を読ませたい」との住人の声に何とか応えるべく協議を重ね、同町出身の作家、水上勉さんに相談することになった。

彼自身貧しい家庭で育ったため、本を満足に読めない少年時代を過ごしていた。

話し合いの結果、水上さんは故郷であるおおい町の未来のため、そして子どもたちのため、私財を注ぎ込み1985年に「若州一滴文庫(じゃくしゅういってきぶんこ)」を設立したのだ。

ここは、建物の柱の1本1本にまで彼の思いが込められた文学館だ。

現在はNPO法人「一滴の里」が運営している

 

自身の蔵書を約2万冊開架する図書室の入り口には、「佐分利川(さぶりがわ)べの子らに」と題した直筆のメッセージが飾られている。

メッセージの最後に「ここにある本は勝手に読んでもらって構わない。そこから何かを“拾って”くれ」と書かれていた。

「人生も夢も与えられるものではなく、自分から手を伸ばして拾ってほしい」という子どもたちへの思いが、この一文に表れている。

図書室には貴重な本も多く収蔵されているが、「本は読まれないと意味がない」という水上さんの考えで、誰でも自由に手に取ることができる。

 

図書室奥「ブンナの部屋」。最新の児童書が揃う

 

館名は、おおい町生まれの僧侶、儀山善来(ぎさんぜんらい)の教えに由来する。

ある日、善来が風呂に入っていた時のこと。

弟子の雲水が湯を薄めた残り水を庭に捨てるのを見て「その一滴の水を数歩歩いて植物にかけていたら、無駄にはならなかった」と大喝(だいかつ)したという。

その教えに感銘を受けた水上さんは「一滴の水にも命、そして意味がある。そんなことを考えられる子どもたちを育てたい」との思いで文学館を「一滴文庫」と名付けた。

水上さん主宰の竹人形文楽の舞台「車椅子劇場」

「若州一滴文庫」をきっかけに生まれた台湾とおおい町の友好を記念した桜

「微遍路」は、普段なら通り過ぎてしまう景色の中で、何かを“拾う”旅だった。

道中のさまざまな人との出会いや出来事も、決して与えられたものではなく、自ら拾い、得たものだ。

 

僕もこの場所で水上さんの言葉をそっと“拾った”のだった。

ゆっくり本を読みながら、「生活芸人」充電中…。

若州一滴文庫(じゃくしゅういってきぶんこ)

福井県大飯郡おおい町岡田33-2-1
☎0770-77-2445
【営】9:00 ~ 17:00
【休】毎週火曜(祝日の場合は翌平日)、年末年始(12月29日~1月3日)
ホーム―ページ

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