【Bspoken SPECIAL TALK】いい服は、着てからが面白い。

(左)クリーンマスター有賀 代表 有賀 秀雄氏、(右)野路洋服店 店主 野路 純平氏
仕立てたばかりの一着が、着るほどになじみ、時間とともにその人だけの服になっていく。
だからこそ、長く着るためには、日々の着用だけでなく、状態を見ながら手を入れることも大切。
仕立てる人と整える人、それぞれの視点から「いい服」と、その付き合い方を語ってもらった。
野路洋服店 店主 野路 純平
ユナイテッドアローズでメンズドレスを長年担当した経験を経て、福井で「野路洋服店」を営む。体に合ったスーツと装いを通して、見た目だけでなく、その人自身の気持ちや振る舞いまで変える服を提案している。
クリーンマスター有賀 代表 有賀 秀雄
福井県クリーニング組合理事長。1981年創業の高品質クリーニングをはじめ、衣類の製品修整、靴・バッグのメンテナンスなどを手がける。終身上級技術者資格検定・福井県内唯一の認定者。長年培った技術と経験を生かし、一着ごとの状態に合わせたメンテナンスを追求している。
二人のプロが語る、服との付き合い方
野路 着たときに気分が上がる服。それと、見栄えが良くなる服。「いい服」とは、そういうものだと思っています。決して機能性ではないです。
有賀 僕は、まず着たときに「しっくりくる」ことですね。素材がしっかりしていることも大事。最近はラフな雰囲気のスーツも増えましたけど、やっぱり長く着ることを考えると、素材と仕立ての良さは大きいと思います。
野路 分かります。服って、機能だけじゃないですからね。着ることでちょっと気持ちが変わる。そこが洋服の面白いところだと思います。

対談には、有賀さんの娘・有賀利恵さんも同席。現在は親子で店を営み、父から受け継いだ技術と仕事への思いをともに支えている
野路 僕は、服って着込んでいくのが面白いと思うんです。新しいときが一番かっこいいかというと、そうでもない。長く着ていくと、角が取れて、だんだんその人の服になっていく。
有賀 そういう服を見ると、やっぱり大切にされてきたんだなと思います。
野路 素材によっては「育ててください」と言うこともあります。ツイードだったり、リネンだったり。着ることで風合いが変わっていく。だから、買った瞬間が完成じゃないんですよね。
有賀 長く着るなら、服も健康であることが大事。人間と同じで、悪くなってから慌てるより、状態を見ながら手を入れていくほうがいい。
野路 有賀さんの仕事を見ていて、そこまでやるんだ、と思うことがあります。
有賀 クリーニングって「汚れたから洗う」というイメージが強いですけど、それだけではないんです。実際には、服を見て、触って、場合によってはニオイも確認して、どういう状態なのかを判断する。お客様にも「汗をかいた」「食べこぼした」など、着用状況を一言添えてもらえると、処置の判断材料になります。
野路 見える汚れなら分かるけど、見えない汚れもありますもんね。
有賀 そう。例えば汗や皮脂などの水分を含んだ汚れは、ドライクリーニングだけでは3割しか取り切れない場合もある。だから、必要なところを必要な方法で処理するんです。

有賀 私が考えるメンテナンスは、大きく言えば三つ。風合いを戻すこと、仕立てたときのシルエットに整えること、そして汚れを除去すること。単純に「洗ってきれいにする」だけではなくて、一着のスーツを、できるだけ仕立てたときの状態に戻していく。それをプレミアムクリーニングと考えています。
野路 それって、もう一回服をつくっているような感覚ですね。
有賀 以前、アルマーニとブガッティのコラボ商品で、カシミヤのコートを扱ったことがありました。かなり高額なうえ、限定品。もし失敗したら取り返しがつかないので、安全を取って無理をしない方法も考えました。でも最終的には、作業工程を頭の中で描きながら、ドライクリーニングではなく、水洗いによるフルメンテナンスをさせていただきました。限定品なので、念には念を入れ、平常心でやらないといけない。結果は、見事によみがえりました。
野路 服が生き返った、という感じですよね。
有賀 そう。だから、この仕事は面白いんです。
野路 だからこそ、服を買うときも「持っていないから」「この色がないから」という理由だけで選ばないほうがいいと思うんです。まず自分の気分が上がるか。そして、しっくりくるか。そう。家に似たような服が何着あっても、それが大好きならいいんですよ。黒以外ね。

有賀 逆に、安いからというだけで衝動買いすると、結局お金がもったいない。気に入った一着を、長く着る。そのために手を入れる。そう考えると、服との付き合い方も変わりますよね。
野路 服は、買って終わりじゃない。着て、育てて、手をかけていく。その時間まで含めて、いい服なんだと思います。
一度着ただけで、毎回クリーニングに出さない。
洗いすぎは、生地を傷める原因になることも。
ウールは、吊るしておくとシワが戻りやすい。
着用後はハンガーに掛けて休ませることで、シワが自然と戻る。それでもとれない気になるシワはスチームをあてる。
ドライと水洗いは、服の状態で使い分ける。
ドライクリーニングは素材本来の油分まで失われる場合があるため、状態や目的に応じたメンテナンスが大切。
クリーニング店には、気になることを具体的に伝える。
着用時の状況を伝えることで、必要な処置の判断材料になる。
衣類用消臭スプレーを、むやみに使わない。
成分が蓄積すると、クリーニングでも落としにくくなる場合がある。
服を選ぶときは、自分の気分が上がるかが大事。
持っていない色や服だからという理由だけで選ばない。こっちの方が無難と感じたら選ばない。ブナンはいらない。
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